第五十九話 「秋への布石」
夕暮れのジム。窓の外には茜色に染まった空が広がっている。
疲れた身体を休めるサイドールたちが点在する中、フリアノンはいつものように控室のソファに腰を下ろしていた。
「ノンちゃん、そろそろ秋のレーススケジュールを決めへんとな」
明るい声でミオが隣に座る。
いつもながらの関西弁は影を潜め、どこか落ち着いた口調だ。
「はい、ミオさん」
フリアノンは少し疲れた笑みを浮かべる。
「今年は色々あったけど、着実に体力も感覚も戻ってきてるし、秋の本格参戦に向けてしっかり調整したいわね」
そこへ村瀬が書類を手に控室に入ってきた。
眼鏡越しにフリアノンを見つめ、にこやかに話し始める。
「秋のレースプランなんだけど、まずはD2の中距離戦『ガニメデグランドプライズ』からスタートするよ」
フリアノンが顔を上げる。
「ガニメデ……ですか?」
「そう。ここはしっかり勝って、格を上げていきたいレースだね」
村瀬はうなずく。
「それから続くのが、D1の中距離戦、『皇帝杯(秋)』だ。ここが今年の秋の山場になるね」
ミオが補足する。
「そうそう、皇帝杯はシニアクラスの中でも最も注目されるレースや。ここで結果を出せれば、一気に評価も上がるし、ファンも増えるで」
「……私、頑張ります」
フリアノンの瞳に力が戻る。
村瀬は書類をめくりながら続けた。
「その後は女子限定のD1中距離戦『クイーンズカップ』。女子だけの戦いだから、また違った緊張感があるだろうね」
ミオがニコニコしながら付け加えた。
「このクイーンズカップは女の子サイドールの見せ場やし、ノンちゃんにもぜひ勝ってほしいわ」
フリアノンは少し照れたように微笑む。
「そして、年末の最後を飾るのが、地球圏で開催される長距離D1、アースグランプリ。ここは全世代から最強が集まる国際レースや」
ミオの目はキラキラと輝いていた。
「今年の最後を締めくくる大舞台、ノンちゃんがここに立つ姿、めっちゃ楽しみにしてるで!」
フリアノンは深呼吸をして言葉を紡いだ。
「体力も気力もまだ万全じゃないけど、絶対に間に合わせます。スレイの夢の続きを、私が叶えるために――」
村瀬が静かにうなずく。
「焦らず、一歩一歩確実に進もう。お前にはその力があると信じてる」
ミオが手をフリアノンの肩に優しく置いた。
「そうや、ノンちゃん。無理は禁物やけど、秋は大きなチャンスやで。全力でサポートするからな」
フリアノンはしっかりと目を閉じ、決意を胸に刻んだ。
(……秋は、私の季節にする……!)
窓の外、空は静かに夜へと移り変わっていく。
明日からの練習、そして秋の大舞台へ向けての挑戦が、確かに動き出したのだった。




