第五十六話 「新たなる決意」
夏の朝。
病院の窓から差し込む陽射しは強く、真っ青な空に入道雲が浮かんでいた。
「……暑い……」
フリアノンはリハビリ用のトレーニングウェアのまま、窓辺に座って空を眺めていた。
(……みんな……今頃……ジムで練習してるんだろうな……)
マーメルス、ラディウス、ガルディアス、リュミエル……
思い浮かべるだけで、胸がきゅっと苦しくなる。
(……わたしも……行きたい……)
でも今は、リハビリで体を戻すことが最優先だ。
村瀬にも、ミオにもそう言われている。
(……だけど……)
昨日、マーメルスが来てくれた。
ツンツンしてたけど、優しかった。
あのときもらったプリンの甘さが、まだ舌の奥に残っている気がする。
(……わたし……どうしたいんだろう……)
考えても答えは出ない。
ただ、胸の奥にある焦りと恐怖だけが渦を巻く。
(……もし……また倒れたら……もし……スレイプニルみたいになったら……)
震える手を膝の上で握りしめる。
(……怖い……)
でも。
「……ノンちゃん?」
扉がノックされて、顔を上げるとミオが立っていた。
「おはよう。リハビリ、もう始める?」
「……うん……」
ミオはにっこりと笑い、近づいてフリアノンの頭を撫でた。
「無理しなくていいんやで。ゆっくり戻したらええ」
「……でも……」
「でも、やない。今は焦らんとき。……ノンちゃんには、ちゃんと帰る場所がある。待ってる人もいっぱいおる」
その言葉に、フリアノンの目の奥が熱くなった。
「……ミオさん……わたし……わたし……」
言葉に詰まって俯く。
ミオは優しく肩を叩いた。
「泣きたいときは泣いたらええ。泣いて、前向けるなら、それでええんやで」
「……うっ……うぅ……」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
止められなかった。
声を殺して泣くフリアノンを、ミオはただ黙って抱きしめてくれた。
◆
その日の午後。
フリアノンは屋上に出ていた。
夏の風が、短い髪を優しく撫でる。
(……わたし……どうしたいの……?)
俯いて呟くと、心の奥から声が聞こえた。
『あんたは……どうしたいの……?』
スレイプニルの声だった。
幻聴なのか、記憶なのかはわからない。
でも。
(……わたし……)
ぎゅっと胸に手を当てた。
(……やっぱり……走りたい……みんなと一緒に……わたし……まだ……終わりたくない……)
空を仰いだ。
眩しい太陽が、滲んで見える。
(……走りたい……もっと……強くなりたい……!)
涙が頬を伝う。
だけど、その瞳には確かな光が宿っていた。
(……怖い……けど……でも……わたし……負けたくない……)
『ノンちゃんなら……できるよ……』
聞こえた気がした。
(……ありがとう……スレイ……わたし……やってみる……)
ゆっくりと立ち上がる。
そして拳を握った。
「……わたし……絶対に……戻る。……そして……勝つ……!」
小さな声だった。
けれど、その決意は夏空に負けないくらい、強く、熱かった。




