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サイドライブ  作者: 碗古田わん


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第五十話 「ファン投票一位」

「えっ……わ、わたしが……?」


白雷ジムの食堂にフリアノンの声が響いた。


壁に設置された大型スクリーンには、初夏に木星圏で開催されるジュピターカップの出走サイドールが発表されていた。


その最上段。

堂々と一位に輝いている名前。


――フリアノン


「す、すごいやんか!ノンちゃん、一位やで!」


ミオが感激したように声を上げる。


「……で、でも……でも……わたし、そんな……」


フリアノンは震える手でスクリーンを指さした。

画面には、彼女を支持したファンのコメントが次々に流れている。


《あの追い込みがたまらん!》

《皇帝杯の走り、感動したよ!》

《フリアノン頑張れ!》


(……こんなに……こんなに……)


胸の奥がじんわりと熱くなる。

自分を応援してくれる声が、こんなにもたくさんあるなんて。


「うふふ、良かったねノンちゃん」


穏やかな声がして振り返ると、村瀬が微笑んでいた。


「これで正式にジュピターカップ出走決定や。あのレースは……木星圏最高峰の舞台やからな。ファン投票で選ばれるのは、サイドールにとって大きな誇りや」


「……でも……でも……」


フリアノンは俯いた。

震える唇を押さえ、言葉を探す。


(わたし……そんなに強くない……)


皇帝杯を勝ったとはいえ、まだまだスタミナもパワーも不足している自覚がある。

それに、木星圏には自分よりも強いサイドールが何人もいる。


「何ウジウジしてんだよ!」


ドン、と背中を叩かれて振り返ると、そこにはガルディアスが立っていた。


「一位獲ったんなら胸張れよ!ファンに選ばれるってのは、それだけでスゲーことなんだぜ?」


「……でも……」


「でももクソもあるか!」


ガルディアスは豪快に笑った。


「お前はもうSクラスなんだ。皇帝杯だって獲ったじゃねーか!ファンが見たいのは、その走りなんだよ!」


「……うん……」


フリアノンは小さく頷いた。

すると今度は、ラディウスが優しく声をかける。


「大丈夫だよ。君ならできる。君はいつも全力で走っている。それが、ファンに伝わったんだよ」


「……ラディウスくん……」


「ジュピターカップ……楽しみだね」


にっこりと微笑む彼に、フリアノンは頬を赤らめた。


「はい……」


◆ ◆ ◆

その夜。


自室に戻ったフリアノンは、スマホを手にベッドに座っていた。

画面には、ファン投票結果の詳細が表示されている。


(……こんなにたくさんの人が……わたしを……)


恐怖とプレッシャーで胸が苦しくなる。

でも、それ以上に……嬉しかった。


(わたし……頑張らないと……)


スレイプニルや母・エポナ。

そして、支えてくれるミオ、村瀬、ジムのみんなの顔が思い浮かぶ。


(みんなのために……走る……)


その時、スマホが鳴った。

画面には【ミオ】と表示されている。


「ノンちゃん、寝とったか?」


「……いえ……」


「そっか。ちょっとだけええか?」


「はい……」


電話越しに、ミオの優しい声が響いた。


「ファン投票、一位おめでとうな。……あんたが一番不安がってるの、わかっとる。でもな……」


少し間が空いた。


「ファンはちゃんと見とる。あんたが必死に走ってることも、スレイちゃんのために頑張っとることも。そやから……堂々と、胸張って出たらええんやで」


「……はい……」


涙がこぼれ落ちた。


(……頑張らないと……)


(わたし……強くならないと……)


布団に潜り込み、枕を抱きしめる。


(……スレイ……見ててね……)


外では春の夜風が吹いていた。

窓の外に瞬く星々が、フリアノンの決意を見守るように輝いていた。

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