第四十九話 「祝勝会と決意」
皇帝杯から一夜が明けた。
白雷ジムの食堂は、朝から祝賀ムードに包まれていた。
「ほら、ノンちゃん。今日はお祝いの日や。いっぱい食べや」
ミオが用意してくれた特製サラダやスープ、山盛りのご飯がテーブルいっぱいに並ぶ。
フリアノンは目をぱちくりさせながらも、そっと箸を伸ばした。
「……ありがとうございます……」
「何言うてんの。あんたが勝ったから、こうして祝勝会ができるんやで」
ミオはニカッと笑い、コップのジュースを掲げた。
「改めて……皇帝杯優勝、おめでとう!」
「お、おめでとう!」
周囲のジムスタッフも声を揃えて拍手する。
フリアノンは頬を赤くしながら、小さく会釈した。
「……ほんとうに……ありがとうございます……」
◆ ◆ ◆
「おーい、ノンちゃん!」
大きな声と共に現れたのは、ガルディアスだった。
彼はいつもの調子で、ドンとフリアノンの背中を叩く。
「いてっ……」
「悪い悪い。でもよ、よくやったじゃねえか!お前が皇帝杯取るなんて、正直ビビったぜ!」
「……ありがとう、ガルディアスくん……」
「まあ、次は負けねえけどな!」
そう言ってニッと笑う彼に、フリアノンも小さく笑顔を返した。
◆ ◆ ◆
ラディウスもやってきた。
彼は爽やかな笑顔で、優しくフリアノンの頭を撫でる。
「おめでとう、フリアノン。君の走り……とても美しかったよ」
「……ラディウスくん……ありがとう……」
「でも、これからが本番だね」
「……はい……」
◆ ◆ ◆
「……ふん。あたしも負けてられないわね」
マーメルスが腕を組み、少し悔しそうに睨む。
だがその目には、確かな敬意も混じっていた。
「今度の短距離走杯……絶対に勝つわ」
「……うん……」
フリアノンは頷きつつも、その胸に去来する思いがあった。
(……スレイ……見てくれた……?)
亡きスレイプニルの面影が脳裏に浮かぶ。
(私……やっと……夢の舞台で勝てたよ……)
心の奥が、じんわりと熱くなる。
スレイプニルと交わした約束。
今もまだ、あの声が耳に残っていた。
(……でも……まだ終わりじゃない……)
その目に、涙が溜まりかける。
けれどフリアノンはそれを指で拭い、顔を上げた。
◆ ◆ ◆
祝勝会が終わった後、彼女はジムの屋上に出て、ゆっくりと春の夜空を見上げた。
桜色の花びらが風に舞い、ほのかに甘い香りが漂う。
(……スレイ……)
(次は……もっと強くなる……あなたの分まで……)
母・エポナのことも思い出す。
(お母さん……私、ここまで来たよ……でも……)
まだまだ道は終わらない。
もっと先へ、もっと高く。
「ノンちゃん、こんなとこおったんか」
背後からミオの声がした。
振り返ると、ミオはニッと笑って手を振っていた。
「さ、明日からまた練習やで。夢に向かって、一歩ずつや」
「……はい……!」
フリアノンは強く頷き、春の夜空に手を伸ばした。
(私はまだ走る……もっと……もっと遠くへ……)
(スレイ……見ててね……)
穏やかな春の風が、フリアノンの頬を優しく撫でた。
その中で彼女の決意は、誰よりも熱く輝いていた。




