第四十八話 「皇帝杯(春)本戦」
地球圏最大のスタジアムは、朝から興奮に包まれていた。
「おおおおおおっ……!さすが皇帝杯……!」
控室に入りながら、フリアノンは震える手を胸に当てた。
場内を埋め尽くす観客。ファンの歓声が壁越しに響いてくる。
「ノンちゃん、大丈夫?」
隣でミオが声をかける。
今日はこの最高峰の舞台で、フリアノンもまた走るのだ。
「は、はい……っ……でも、やっぱり……すごくて……」
「そりゃそうよ。皇帝杯だもん。シニアの頂点を決めるレースよ」
ミオは笑い、フリアノンのヘルメットのバイザーを指で軽く弾いた。
「でもね、あんたもここに立てる存在なんだから。胸張りなさい」
「……はい……!」
◆ ◆ ◆
「スターティングゲート、オープン!」
号砲と共に機体が跳ねるように飛び出した。
全長20mを超える二人乗りのサイドール駆動型宇宙船。
その推進力の源はサイドール自身の念動力だ。
『よっしゃ行くぞ!ガルディアス!』
「おうっ!根性でぶっちぎってやるぜっ!」
スタート直後から飛び出すガルディアス。
その隣で、軽やかにステップを刻むラディウス。
『落ち着いていこう、ラディウス。焦るなよ』
「おう!任せろって、玲那!」
烈風ジムコンビは好スタートを切る。
そして――
「……リュミエル……行こうか」
『……うん……』
淡々と答えるリュミエル。
その瞳には特有のぼんやりとした色が宿っていたが、その奥に潜む力は計り知れない。
最後方からはフリアノンとミオ。
『ノンちゃん、作戦はいつも通り。後方待機から、最後の直線で全部出すんだよ』
「……はい……っ……!」
スタートから二分の一周。
ガルディアスとラディウスが先頭集団を形成し、リュミエルはぴたりと三番手につける。
フリアノンは集団後方に身を潜めた。
(大丈夫……私には……私のやり方がある……)
◆ ◆ ◆
レースは最終周回へと突入した。
『ガルディアス!根性見せろ!』
「おうっしゃあああああっ!!」
『ラディウス、ここよ!抜けっ!』
「いくぜっ!!」
二人が競る中、リュミエルは静かに加速する。
『リュミエル、今だよ』
「……うん……」
その声に応え、リュミエルの宇宙船は音もなくスピードを増した。
『……ダメだ、ノンちゃん……もう仕掛けるよ!』
「は、はいっ……!」
フリアノンは後方から一気に念動力を解放した。
機体が震える。
視界が一瞬で流れ去り、背後の世界が霞んでいく。
(……スレイ……お母さん……見てて……っ……!)
◆ ◆ ◆
最終コーナーを回り切ると、前方には既に先頭争いが展開されていた。
「っ……!」
先頭はリュミエル。
その後ろで、必死に追いすがるガルディアスとラディウス。
だが二人の息が上がっているのが遠目にもわかる。
『ガルディアス!根性っ……!』
「がっ……はっ……ぐっ……!」
ガルディアスの機体がわずかにブレた。
同時にラディウスも大きく蛇行する。
『ラディウス!?しっかりして!』
「だ、大丈夫……ぐっ……」
二人は同時にスタミナ切れを起こし、ずるずると後退する。
「……っ……今だ……!」
フリアノンは残された念動力を全解放した。
機体の重心がぐっと沈み込み、超感覚視界が一気に広がる。
(追いつける……!)
あと少し。
あと数メートル。
念動力をさらに捻り出す。
「……っ……ああああああっ!!」
光の粒が周囲に散る。
限界を超える瞬間。
『……リュミエル、抜かせないよ』
「……うん……」
最後の直線。
二人の機体が完全に並ぶ。
(……負けない……!)
そして――
ゴール板を通過した瞬間。
場内にアナウンスが響く。
『勝ったのは……フリアノン!僅差でフリアノンです!』
機体が減速し、勝利を実感した時。
フリアノンの頬を大粒の涙が伝った。
「……やった……やったよ……スレイ……お母さん……」
『ノンちゃん……おめでとう……!』
ミオの声が震えていた。
◆ ◆ ◆
表彰台の上で。
観客席から湧き上がる歓声と拍手。
その全てが、フリアノンを祝福していた。
(これが……皇帝杯……)
(……私は……ここに……立てたんだ……!)
誇りと喜びが、フリアノンの胸をいっぱいに満たしていた。




