第四十六話 「イオカップ編」
「ノンちゃん、気持ち落ち着いてるか?」
スタートゲート裏で、ミオがフリアノンに声をかけた。
「……うん、大丈夫……」
4歳になって初のD1挑戦――イオカップ。
長距離戦で、相手は全員シニアの最強格。
ガルディアス、リュミエル、ラディウスと、太陽系杯常連の男子たちが出走する超激戦だった。
(……でも……勝ちたい……!)
ゲートインを済ませたフリアノンは、目を閉じて深呼吸をした。
「――イオカップ、発走まで10秒前!」
実況のカウントが宇宙中継モニターから響き渡る。
(お願い……力を……!)
「――スタート!」
電子音と共に、ゲートが開いた。
◆ ◆ ◆
《先頭に立ったのは黒鋼ジムのガルディアス、その後ろに烈風ジムのラディウス!》
「おっしゃ! 今日も逃げ切ったるで!!」
ガルディアスの背中で、シグマが冷静に声を飛ばす。
「無駄な感情を入れるな。数値は良好、そのままペース維持」
「へいへい!」
そのすぐ後ろ、ラディウスが笑っていた。
「うわ~、なんか速いね今日! ねぇ玲那ちゃん!」
「ラディウス、舌の根乾かす前に前見ろ!」
ナビゲーターの玲那が声を張る。
《そして三番手集団、内からリュミエル、外にフリアノンがつけています!》
「ふわぁ……なんだか今日は……宇宙がきれいだね……」
「リュミエル、前を見て。無理にペース上げなくていいから、今は抑えて」
「うん、ユリウス……」
フリアノンは彼らを横目で見ながら、ミオの声に集中していた。
「ノンちゃん、今は無理して前に行かんでええ。後半勝負や」
「……うん……!」
◆ ◆ ◆
レースは中盤、距離の半分を過ぎる。
《先頭は変わらずガルディアス! 二番手ラディウス、三番手にリュミエル、そしてフリアノンが四番手!》
「うりゃぁあああ!!」
「ガルディアス! 無駄に叫ぶな、数値が乱れる!」
「おおっと、すまんシグマ!」
一方、ラディウスは相変わらず。
「わー、楽しいねー玲那ちゃん!」
「ラディウス、ペース落とすなよ。視線は前!」
「りょーかいっ!」
そして三番手、リュミエル。
「ねぇユリウス……そろそろ?」
「まだだ、まだ抑えろ……。ここで感情を動かすな……いい子だ、リュミエル」
「……ふふ……」
後方四番手、フリアノン。
「ノンちゃん、体力残してるか?」
「……だ、大丈夫……!」
「よっしゃ、最終コーナー入ったら合図出すからな!」
(……うん……うん……私……やれる……!)
◆ ◆ ◆
《レースは最終コーナー! 先頭はガルディアス、横にラディウスが並ぶ! その外からリュミエルが仕掛けた!!》
「今や!!」
ユリウスの声と同時に、リュミエルの背から虹色のPK光が放たれる。
「……いくよ……」
《リュミエル、スパート!! 一気に抜け出したぁ!!》
「ガルディアス!! 奴を追え!!」
「お、おう!!」
《しかしガルディアスも粘る! ラディウスもついていく!》
「ラディウス!! もっと前出ろ!!」
「う、うん!!」
後方、フリアノン。
「ノンちゃん、今や!!」
「……っ、うん!!」
(……追いつく……追いつく……っ!!)
フリアノンも念動力を解放する。
《フリアノン、伸びる伸びる!! 一気に二頭を抜き去った!!》
「えっ、ノンちゃん!?」
「が、ガルディアス、抜かれんな!!」
「む、無理やぁああ!!」
ラディウスも懸命に脚を伸ばすが、フリアノンの勢いは止まらない。
《しかし先頭はリュミエル!! その差はまだ三馬身!!》
「……っ……っ……!」
「ノンちゃん、もっと前!! 差し切れる!!」
「……っ……!」
(届く……届く……届いて……!!)
《残りわずか!! フリアノン、リュミエルとの差が縮まる!! 一馬身! 半馬身!!》
だが――
「……ふふ……ここまで……」
ユリウスが静かに微笑む。
《ゴール!! 先頭はリュミエル!! しかし二着に追い込んだのはフリアノン!!》
「はぁ……はぁ……っ……」
ゴールを駆け抜けたフリアノンは、悔しさと達成感が入り混じる涙で前が滲んだ。
(……届かなかった……でも……っ……)
「よう頑張ったな、ノンちゃん……!」
ミオの声が震えていた。
◆ ◆ ◆
表彰式で、リュミエルはいつものぼんやりした顔でトロフィーを掲げていた。
「……あれ……重いなぁ……」
「まったく……お前という奴は……」
ユリウスが呆れながらも優しく微笑む。
その光景を遠目で見つめるフリアノン。
(……私も……あの景色……)
小さく唇を噛む。
(……必ず……掴む……!!)
彼女の瞳はもう、次の皇帝杯を見据えていた。




