表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイドライブ  作者: 碗古田わん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/117

第四十五話 「スタミナ特訓編」

白雷ジムの屋内トレーニング場。

人工重力を通常の1.5倍に設定したコースを、フリアノンは必死に走っていた。


(……はぁ……また……負けちゃった……)


アースエコノミーニューイヤーカップ、ガニメデカップと続けて2着。

どちらも追い込む脚はあった。だが――


(……最後……届かない……)


息を切らせながら、フリアノンは足元を見つめた。

シニアになってから、レース距離も相手のレベルも一気に上がった。

今までのように、最後の直線だけで差し切れる相手ばかりではない。


「ノンちゃん、大丈夫か? 休憩入れるか?」


トレーニング管理コンソールの前で、ミオが声をかける。

フリアノンは顔を上げ、汗で濡れた前髪を払いながら、小さく首を振った。


「……まだ……やる……」


「無理したらあかんで? まだイオカップまで三週間あるし」


「……でも……私……勝ちたい……」


その瞳には、確かな決意が宿っていた。


◆ ◆ ◆

数分後、給水休憩を終えると、フリアノンは重力ベルトを巻いて再び立ち上がった。

人工重力1.8倍設定。

これまで一度も完走できたことのない負荷。


(……負けない……!)


ジムの天井に張り巡らされた照明灯が、フリアノンのシルエットを長く落とす。

その背中を見守るミオは、目を細めた。


(ほんま……根性ついたなぁ……あのビビりのノンちゃんが……)


スタートラインに立ったフリアノンは、ゆっくりと息を吐き、そして走り出す。


◆ ◆ ◆

重力が足に絡みつき、胸を圧迫する。

酸素が足りない。頭がぼうっとする。


(……でも……でも……!)


脳裏に浮かんだのは、敗北したレースで先にゴールへ駆け抜けるラディウスやガルディアスの背中。


(……追いつけなかった……)


そして、オータムフラワーで追い抜いたマーメルス。

あの時の感触、あの時の歓声。


(……また……あれが欲しい……!)


自分のためだけじゃない。

スレイプニルのため、母エポナのため――

何より、応援してくれる“おばあちゃん”菊乃のために。


「……っ……うぅ……っ!」


足が鉛のように重くなる。

でも止まらない。


(……私……強くなる……!)


次のイオカップはD1。

自分よりも速くて強い、銀河最上位のシニアサイドールたちが集まる舞台。


(……勝ちたい……!)


◆ ◆ ◆

「……っ……はぁ……っ……!」


結局、その日も1.8倍設定では最後まで走り切れなかった。

だが、フリアノンの顔には悔しさ以上に、ほんの少しの達成感が滲んでいた。


「ようやったな、ノンちゃん。前より長い距離走れたやんか」


「……うん……次は……最後まで……!」


汗で濡れた頬に、ミオがタオルを当てる。


「無理したらあかんで。ほんまに倒れるで」


「……わかってる……でも……」


小さく笑って見せるフリアノン。


「……私……勝ちたいから……!」


その微笑みは、かつての怯えた彼女ではなく、レースに生きる者としての覚悟を帯びていた。


◆ ◆ ◆

ジムの窓から見える宇宙には、遠く木星の赤い縞模様が淡く輝いていた。


(……待ってて……スレイ……今度は……私が銀河一になる……!)


その瞳に映る未来は、遥か彼方の太陽系杯やアースグランプリさえも見据えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ