第四十三話 「アースエコノミーニューイヤーカップ」
「さあ、いよいよ始まります! 今年最初のD2中距離戦――アースエコノミーニューイヤーカップ!」
地球圏の新年を彩る伝統のレース。
スタンドには朝の冷気をものともしない熱気が渦巻いていた。
「ノンちゃん、落ち着きや」
ミオは、ゲート裏で震えるフリアノンの肩を軽く叩いた。
彼女の手には白雷ジムのエンブレムが刻まれたヘルメット。
「だ、大丈夫……だと思う……」
「ええか?今日はラディウスもおるんやで」
(ラディウス……)
フリアノンは視線を横に向けた。
そこには、烈風ジムの誇る人気者――ラディウスが眩しい笑顔を振りまいていた。
「おっ、フリアノンじゃん。今日も元気にいこーぜ!」
「う、うん……」
軽く手を振るラディウスに、フリアノンは思わず顔を赤らめてしまう。
(ラディウスくん……やっぱりカッコいい……)
(でも……今日は負けない……!)
ゲートイン。
システム起動音と共に、コクピット内の表示が一斉に光を放つ。
「全機、スタンバイ……」
(いける……私なら……)
(スレイ……見てて……!)
◆ ◆ ◆
スターターが旗を振り下ろした瞬間、各機が一斉にスタートを切った。
「各機、スタートしました! まずはラディウスが飛び出す! さすが烈風ジムのエース、好スタートです!」
(さすがラディウスくん……速い……!)
だがフリアノンは焦らなかった。
ミオの声が冷静に響く。
『ノンちゃん、今日は追い込みでいくよ。前に行こうとせんでええ。自分の走りをするんや』
「……う、うん!」
(追い込み……いつもの……私の走り……)
コース中盤、ラディウスは相変わらず先頭集団の中で軽快に走っていた。
眩しいほどの存在感。
それに比べて、自分は……とフリアノンの胸に影が落ちそうになった時。
『下を向くな! ノンちゃんの武器は最後の脚や!』
ミオの叱咤に、彼女はハッと顔を上げた。
(そうだ……まだ終わってない……!)
最終コーナーに差し掛かる。
ラディウスが徐々にギアを上げる。
「ここでラディウス、スパートを開始したぁ!」
(いかなきゃ……!)
『今や!』
ミオの声と同時に、フリアノンの念動力が爆発する。
コクピットの表示が赤く点滅し、機体が一気に加速した。
(抜く……ラディウスくんを……!)
直線に入り、先頭を走るラディウスの背中が急速に近づく。
(届く……!)
だが――。
「ラディウス、まだ脚がある! 加速する! フリアノン、追いつけるか――!」
ラディウスは振り向き、にこっと笑った。
「悪いな、ノンちゃん! 今日は譲れねぇや!」
(あ……)
残りわずか。
フリアノンの念動力残量が限界を迎える。
(届かない……!)
ゴール板を駆け抜けたのはラディウス。
ほんの数メートル差で、フリアノンは2位に終わった。
◆ ◆ ◆
「……っ……」
レース後、コクピットを降りたフリアノンは悔しさに唇を噛んだ。
「ノンちゃん、ようやったで。あんたは確実に強くなっとる」
ミオが頭を撫でる。
フリアノンは涙を溜めながらも笑った。
「うん……でも……勝ちたかった……」
その時、ラディウスが近づいてきて、爽やかな笑顔で言った。
「ノンちゃん、いい走りだったぜ! 次は負けるかもな!」
「ラディウスくん……ありがとう……」
悔しさの奥に、小さな灯がまたひとつ灯る。
(次は……勝つ……!)
新年の冷たい風が吹くスタンドに、フリアノンの決意は静かに燃えていた。




