第四十二話 「シニアへの道」
年が明けてすぐ、白雷ジムの空気は冷え込み、吐く息が白く立ち昇っていた。
「……ふぅ……」
フリアノンは、真冬の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
新しい年の匂いがする。
そしてそれは、彼女にとってただの新年ではなかった。
(……私、4歳……)
(シニア……だ……)
サイドールにとって4歳はシニア入りの年齢。
成長の早いサイドールたちにとって、シニアという響きは大人として扱われる証でもあった。
白雷ジムの事務室では、調教師兼マネージャーの村瀬が、ナビゲーターのミオと今年のレースプランを相談していた。
「さて……フリアノンも4歳になった。いよいよシニア戦線に乗り込む年だな」
「せやね。シニアのスケジュールはどうすんの?」
ミオは手元のタブレットを操作しながら尋ねる。
「まずは……D2の中距離戦、アースエコノミーニューイヤーカップから始めるつもりだ」
「新年一発目か。ええんちゃう?勢い付けるには」
「うむ。そこで弾みをつけて……次はD2中距離、ガニメデカップだ。ここは実績作りにはちょうどいい」
「で、そっからD1行くんやろ?」
「ああ。D1の長距離戦、イオカップだ」
村瀬はスケジュールを見つめ、少しだけ厳しい表情を見せた。
「イオカップは強豪揃いや。大丈夫なん?」
「問題はない……とは言えないな。だが、避けては通れない」
そして彼は、最後の予定を告げた。
「その後は、春の皇帝杯だ」
「皇帝杯……!」
ミオの声が一段高くなる。
「いきなり最高峰狙いか。ま、ノンちゃんならやれんことないけどなぁ……」
「フリアノンの成長を信じるしかない」
村瀬の瞳には、フリアノンを預かる者としての覚悟があった。
◆ ◆ ◆
一方、フリアノンはジムの芝生で小さな白い花を撫でながら、ぼんやりと空を見上げていた。
(皇帝杯……)
(そこに……私が……)
遠すぎる目標のようで、でも胸の奥がほんの少し熱くなる。
(スレイ……見てる……?)
(私、もうシニアだよ……。あのときの私とは違うから……)
(あのときの私なら……きっと、ここで諦めてた……)
彼女はそっと両手を握り締めた。
(でも、今は……違う……)
(……私……行きたい……)
(みんなのいる……一番高い場所へ……)
その目には、かつてないほど強い光が宿っていた。
◆ ◆ ◆
事務室では、村瀬がレース間隔についても説明していた。
「各レースの間隔は……おおよそ1ヶ月くらいだな」
「そしたら調整は余裕あるか」
「ああ。ただし……油断は禁物だ。特に皇帝杯は、アースグランプリと並ぶシニア最高峰のレースだ」
村瀬はタブレットを閉じると、ミオに向かって微笑んだ。
「……だが、楽しみでもあるな」
「そやね。ノンちゃんがどこまで成長してるか……見ものやわ」
◆ ◆ ◆
夕方、フリアノンはトレーニングを終え、ジムの裏庭で深呼吸していた。
冷たい風が頬を撫で、少しだけ涙が滲む。
「……寒い……でも……」
でも、その寒ささえも、今の彼女には心地よかった。
胸の奥に、確かに灯った小さな炎があったから。
(負けない……私、負けない……)
(そして……いつか……あの場所へ……)
白い吐息を夜空へと放ち、フリアノンは静かに笑った。




