第四十話 「静かな夜、揺れる想い」
アースグランプリが終わって数日。
地球圏に戻った白雷ジムには、穏やかな空気が流れていた。
年末の一大イベントを終え、ジムのスタッフも皆どこか安堵しているようだった。
「ノンちゃん、お茶入ったで」
ミオが紙コップを差し出す。
フリアノンは小さく笑って受け取った。
「ありがとうございます……」
両手で抱えるようにしてカップを持つ。
温かさが冷えた指先に染みわたる。
(結局……四着、だった……)
アースグランプリ。
夢のような大舞台で、自分はまた壁に阻まれた。
リュミエル、ガルディアス、ラディウス――
あの銀河最強たちと走れたことは、確かに誇らしい。
でも、心の奥にはどうしようもない悔しさが残っていた。
(私は……まだ全然……届かない……)
ふと視線を落とす。
紙コップに映る自分の顔は、いつもより疲れて見えた。
◆ ◆ ◆
「おい、フリアノン」
背後から声がかかった。
振り返ると、ジムの廊下にガイ・マシラが立っていた。
「おまえ、最近気抜けてんじゃねぇのか?」
「そ、そんなこと……!」
慌てて否定するフリアノンに、ガイは大きく息を吐いて言った。
「まあいい。おまえは根が真面目すぎんだよ。たまには気楽に構えろ。でねぇと本番で硬くなるぞ」
「……はい……」
返事をしながらも、心の中は沈んでいた。
気楽になれたら、どれほど楽だろう。
(でも……)
ふと、浮かぶのはスレイプニルの姿。
『ノンちゃん、もっと胸張って! あなたは立派なサイドールだよ!』
(……うん……そうだよね……スレイ……)
◆ ◆ ◆
夜。
寮の自室に戻ったフリアノンは、窓際に座り込み、外の星空を眺めていた。
遠く瞬く光の中に、かつてスレイプニルと二人で眺めた木星の月を思い出す。
(あのとき……一緒に見たね……)
「スレイ……私……」
膝を抱えて俯く。
小さな肩が震えていた。
(ごめんね……私……まだ、届かない……)
どれだけ走っても、強くなっても、あの頃の自分を超えられない気がして。
何度も諦めかけそうになる自分が、心底嫌だった。
(でも……)
ゆっくりと顔を上げる。
涙で滲む視界の向こう、無数の星々が優しく瞬いている。
(でも……やっぱり……私は……まだ……走りたい……!)
立ち上がり、両手を胸に当てた。
(スレイ……私は……絶対……)
もう一度、あの頂を目指す。
スレイプニルと誓った夢を叶えるために。
そして、いつか。
(……いつか、私も……銀河一になって……)
そのとき、きっと胸を張って笑えるはずだから。
「……がんばる……絶対に……!」
静かな部屋に、小さく響く決意の声。
その瞳には、確かな光が戻っていた。
◆ ◆ ◆
廊下を歩いていたミオは、部屋から漏れ聞こえるその声を聞き、そっと微笑んだ。
(ノンちゃん……立ち直ったみたいやな……)
その笑みは、まるで母親のように優しかった。




