第三十八話 「銀河の頂で交わる誓い」
年の瀬が迫る頃。
宇宙港周辺には、例年にも増して多くのファンと報道陣が集まっていた。
アースグランプリ――太陽系最大にして最後の祭典。
ファン投票で選ばれたサイドールのみが出場できる、男子女子の区別もなく3歳以上の強豪が集う夢の舞台。
そして、そこには――
「ノンちゃん、明日は本番やで。緊張してるか?」
白雷ジムの調整室。
ミオがタブレット片手に笑みを向ける。
「は、はい……少しだけ……」
フリアノンは両手を胸元でぎゅっと握りしめて答えた。
明日はついにアースグランプリ本番。
自分もついに、あの太陽系最高峰の舞台へ立つことになる。
(去年までは夢のまた夢だと思ってた……でも……)
視線を落とし、静かに瞳を閉じる。
思い浮かぶのは、スレイプニルの笑顔。
『ノンちゃん、あんたは絶対強くなれるって、あたし信じてるからな!』
(スレイ……)
失われた親友。
その夢を背負い、自分はここまで走ってきた。
「なぁノンちゃん、今日の前日調整、しっかり集中していこな」
「……はい!」
強く頷き、フリアノンは練習服を着替えるためロッカールームへ向かった。
◆ ◆ ◆
一方、レース会場では前日公開調教が行われていた。
《次、ゲートイン……リュミエル、ガルディアス、ラディウス、フリアノン》
スタート練習ゲート前に並ぶ、四頭のサイドール。
その姿はファンの歓声とフラッシュを浴びて輝いていた。
「……」
リュミエルは相変わらず無表情。
隣に立つユリウスが、微笑みながら通信で声をかける。
『リュミエル、力む必要はないよ。君はいつも通り走ればいい。』
「……うん」
淡々と答え、ゲートインするリュミエル。
◆
ガルディアスは相変わらず派手だ。
『おらあああああ!!絶対勝つぞおおお!!』
その雄叫びに、シグマがピクリともせず冷静に言い放つ。
『無駄な声出しは燃料消費の無駄だ。』
『うっせぇ!!気合だ気合!!』
二人のいつも通りのやり取りに、沿道から笑いが漏れた。
◆
ラディウスは、カメラに手を振りながらも余裕の笑顔。
『ははっ。明日は派手に決めるから、みんな期待しててくれよな』
その表情は自信に満ちている。
◆
そして――フリアノン。
(みんな……すごい……でも、負けない……)
ゲートに入るその顔は、緊張でやや硬い。
だが、その瞳には確かな光が宿っていた。
《スタート練習……発走!》
ゲートが開き、四頭は一斉に走り出す。
その中でも、リュミエルの加速は異質だった。
無駄のない滑らかな加速。
それでいて、決して全力ではない余裕を感じさせる走り。
ガルディアスは地響きを立て、ラディウスは軽やかに駆け抜け、フリアノンは最後尾から懸命に追った。
(負けたくない……!絶対に……!)
◆ ◆ ◆
調教終了後、各陣営は談話室で作戦会議を行っていた。
白雷ジムも例外ではない。
「明日はいつも通り追い込みでいくで。ノンちゃん?」
「……はい!」
フリアノンは座ったまま、ぎゅっと拳を握った。
(スレイ……私、明日……絶対に見せるから……)
《明日は太陽系杯に続き、今年最後の祭典アースグランプリ!男子女子混合、全世代最強決定戦!》
モニターから流れる実況の声が、談話室に響き渡る。
その声を背に、フリアノンはただ静かに目を閉じ、心の奥で親友に語りかけていた。
(スレイ……私、あの頂点に立つから……見ていて……)
決戦の時は、目前に迫っていた。




