第二十八話:オータムフラワー編序章
夏休みも終わり、フリアノンは再び白雷ジムへ戻ってきた。
少し日に焼けた彼女を見て、ジムのスタッフたちは一様に笑顔を見せる。
「……ただいま、戻りました。」
「おかえり、ノンちゃん。」
そんな声に包まれながらも、フリアノンの心はすでに秋へ向けて燃えていた。
◇
秋。
クラシック三冠の最後を飾る長距離戦、オータムフラワーが待っている。
スタッフルームでは、フリアノン陣営の次走について会議が開かれていた。
「さて……オータムフラワーへ向けて、どのローテーションを組むかやけど……。」
ジムの主任トレーナーが壁に貼られたレースカレンダーを指差す。
「うちは、**薔薇杯(中距離)**からオータムフラワーへと向かうローテーションで行こうと思う。」
「薔薇杯……。」
フリアノンは唇を噛む。
中距離はまだ経験が浅いが、オータムフラワーで戦うためには避けて通れない。
「……やります。」
静かな声だったが、スタッフ全員が頷いた。
その瞳には、亡きスレイプニルの夢を背負う覚悟が宿っていた。
◇
一方その頃。
木星圏にあるマーメルス陣営の会議室でも、次走についての激しい議論が行われていた。
「次走は**ジュピターニュースカップ(中距離)**から、オータムフラワーカップへ向かいます。」
マーメルスの担当トレーナーがそう言うと、壁にもたれていたユリウスが口を開いた。
「……悪いけど、それは反対だね。」
「ユリウスさん……?」
トレーナーが眉をひそめる。
マーメルス本人も首を傾げた。
「マーメルスは、中距離じゃなくて短距離が合ってる。
無理に距離を伸ばすより、短距離路線で確実に勝ちを積み重ねるべきだ。」
ユリウスの声は穏やかだったが、その瞳は鋭かった。
「でも……オータムフラワーを勝てば、年末のグランドチャンピオンへの道が開けます。」
「それは分かってる。
でも、サイドールは兵器じゃない。
向いていない距離を無理やり走らせるのは……壊すようなもんだ。」
トレーナーが息を呑む。
部屋には静寂が落ちた。
マーメルスが立ち上がり、ユリウスの前に進み出る。
「……ユリウス。あたしは、勝ちたい。」
その瞳は燃えていた。
「勝って、ロイヤルブラットの名をもっと広める。あたしの母も、祖母もできなかったことを、あたしが成し遂げる。……そのためには、オータムフラワーを取らなきゃならないのよ。」
ユリウスはしばらく黙って彼女を見つめていたが、やがて小さくため息をついた。
「……分かった。でも、無理はさせない。もし予兆があれば、即座に下ろすからね。」
「ふん……その時はその時よ。」
マーメルスはそっぽを向いて言ったが、その頬はわずかに赤らんでいた。
◇
こうして、フリアノンとマーメルス。
それぞれの秋が、静かに、しかし確かに動き始めていた。
全ては――クラシック最終戦、オータムフラワーの頂点を目指して。




