第二十三話:優駿女子・出走前夜
地球圏軌道レースドームの宿泊施設。
クラシック二冠目、D1優駿女子を翌日に控えた夜。
◇
部屋の窓から見える青い地球を、フリアノンはじっと見つめていた。
(……いよいよ、明日……。)
チェリーブロッサムカップでの2着。
それでAクラスを飛び越えてSクラス入りした。
嬉しかった。
でも――
(まだ……スレイの夢には届いてない……。)
◇
「ノンちゃん、入るでー。」
ノックと同時に入ってきたのは、ナビゲーターのミオだった。
いつも通りのコテコテ関西弁と明るい笑顔。
「明日、準備は万端か?」
「……はい。
でも……少し……怖いです……。」
「そら怖いわなぁ。
けど、その分燃えるやろ?」
ミオはニカッと笑い、ポンとフリアノンの肩を叩いた。
◇
そこへ、部屋の外からヒールの音が響いた。
鋭く冷たい視線を感じ、フリアノンは顔を上げる。
「……あら、こんな所にいたの。」
ドアの前に立っていたのはマーメルスだった。
真紅と白の制服に身を包み、どこか不機嫌そうに腕を組んでいる。
◇
「……マーメルス……。」
呼ぶと、マーメルスは一歩近づき、フリアノンを見下ろした。
「明日、優駿女子……出るんだって?」
「……はい。」
返事をすると、マーメルスは小さく鼻で笑った。
「……アンタ、チェリーブロッサムカップで少しはマシになったと思ったけど……優駿女子は中距離よ?
アンタみたいな根性無しに、持つかしら。」
◇
冷たい言葉。
だけど、その瞳の奥には微かに揺れる光があった。
(……期待、してる……?)
フリアノンは小さく笑った。
「……負けません。
……絶対に……スレイの夢を……。」
◇
その言葉に、マーメルスは目を見開くと、すぐに視線を逸らした。
「……フン。
勝手にしなさい。」
くるりと踵を返す。
「……でも、もしアンタが勝つようなことがあったら――
次はあたしが叩き潰してあげるわ。」
そう吐き捨て、部屋を出て行った。
◇
静寂が戻る。
その背中を見送ったフリアノンの心には、不思議と温かいものが残っていた。
◇
「……マーメルスも、不器用やなぁ。」
呆れたように笑うミオ。
「でもノンちゃん。あいつの言うことも間違いちゃう。
優駿女子は中距離。
スプリントとは違うで?」
「……はい。
でも……やってみたいんです。
スレイが……見たかった景色を……。」
◇
窓の外には、青く輝く地球。
そして、その向こうには広大な宇宙が広がっている。
(スレイ……。
見ててね……。)
震える拳を握りしめ、フリアノンは静かに瞳を閉じた。
◇
そして――
夜が明ける。
その先に待つのは、優駿女子という名の試練。
スレイの夢を背負い、フリアノンは再び走り出す。




