第二十二話:敗北の先に
チェリーブロッサムカップから一夜明け、
白雷ジムの共同宿泊棟の一室。
フリアノンはベッドにうつ伏せたまま、動けずにいた。
(……負けた……。)
何度繰り返しても、現実は変わらない。
あのマーメルスの背中。
最終コーナーを回ったとき、あと少しで届くと思った。
――けれど。
(全然……届かなかった……。)
鮮明に蘇るのは、マーメルスが振り返りもせず、一直線にゴールへ駆け抜けていく姿。
◇
「ノンちゃん、起きてるか?」
ドア越しに聞こえるミオ姉の声。
けれど返事をする気力もなかった。
(ごめん……ミオ姉……。)
瞼を閉じる。
スレイの笑顔が脳裏に浮かんだ。
◇
(スレイ……。
わたし……また負けちゃった……。)
あの日、スレイが言っていたことを思い出す。
――ノンちゃんは、ノンちゃんのままでいいんだよ。
(でも……わたし、このままじゃ……。)
◇
涙が零れ落ちた。
枕を濡らしても、声は出なかった。
悔しい。
悲しい。
情けない。
いろんな感情が渦を巻き、頭の中で叫び続ける。
(わたし……どうすれば……。)
◇
その時。
ドアがノックもなしに開き、無遠慮な足音が部屋へ響いた。
「おい、ノン。」
低く厳しい声。
ガイだった。
◇
「……ガイさん……。」
顔を上げる気力もなく呟くと、彼は呆れたように鼻を鳴らした。
「負け犬みたいな顔してんじゃねぇよ。」
鋭い一言が、心に突き刺さる。
「お前、何のために走ってんだ。」
「……っ……。」
「スレイの夢を叶えるんじゃなかったのか?」
◇
ぐらりと視界が揺れた。
(スレイの……夢……。)
「……でも……わたし……勝てない……。」
震える声。
握ったシーツが涙で濡れる。
◇
「勝てない?何言ってんだ。」
ガイはため息をつくと、フリアノンの頭をわしゃわしゃと荒っぽく撫でた。
「勝てねぇなら、勝てるまで走りゃいいんだよ。」
「……っ……。」
「スレイのためだろ?
お前が諦めてどうすんだ。
あいつが泣くぞ。」
◇
(……スレイが……泣く……。)
涙で霞む視界に、スレイが笑っている姿が浮かんだ。
いつもみたいに、太陽みたいに。
◇
「……ガイさん……。」
「なんだ。」
「……わたし……強くなりたい……。」
その言葉に、ガイは口の端を吊り上げた。
「だったら、立て。
今から特訓だ。」
◇
「え……っ、今から……!?」
フリアノンは思わず顔を上げた。
涙で濡れた頬を拭く間もなく、ガイは仁王立ちして腕を組む。
「泣いてる暇なんざねぇ。
走れ。
――勝ちたいんだろ?」
◇
震える足で立ち上がる。
膝は笑い、体は鉛のように重かった。
でも――
(スレイ……見ててね……。)
胸の奥に、小さな光が灯った。
それは、諦めないという決意の光だった。
◇
「よし、行くぞ。」
ガイに続き、フリアノンは廊下を歩き出した。
外には、夜明け前の冷たい空気と、無数の星々が輝いていた。
(わたし……絶対に……。)
その瞳には、敗北の涙ではなく、確かな希望が映っていた。




