表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイドライブ  作者: 碗古田わん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/117

第二十二話:敗北の先に

 チェリーブロッサムカップから一夜明け、

 白雷ジムの共同宿泊棟の一室。


 


 フリアノンはベッドにうつ伏せたまま、動けずにいた。


 


 (……負けた……。)


 


 何度繰り返しても、現実は変わらない。

 あのマーメルスの背中。

 最終コーナーを回ったとき、あと少しで届くと思った。


 


 ――けれど。


 


 (全然……届かなかった……。)


 


 鮮明に蘇るのは、マーメルスが振り返りもせず、一直線にゴールへ駆け抜けていく姿。


 


 


 ◇


 


 「ノンちゃん、起きてるか?」


 


 ドア越しに聞こえるミオ姉の声。

 けれど返事をする気力もなかった。


 


 (ごめん……ミオ姉……。)


 


 瞼を閉じる。

 スレイの笑顔が脳裏に浮かんだ。


 


 


 ◇


 


 (スレイ……。

 わたし……また負けちゃった……。)


 


 あの日、スレイが言っていたことを思い出す。


 


 ――ノンちゃんは、ノンちゃんのままでいいんだよ。


 


 (でも……わたし、このままじゃ……。)


 


 


 ◇


 


 涙が零れ落ちた。

 枕を濡らしても、声は出なかった。


 


 悔しい。

 悲しい。

 情けない。


 


 いろんな感情が渦を巻き、頭の中で叫び続ける。


 


 (わたし……どうすれば……。)


 


 


 ◇


 


 その時。

 ドアがノックもなしに開き、無遠慮な足音が部屋へ響いた。


 


 「おい、ノン。」


 


 低く厳しい声。

 ガイだった。


 


 


 ◇


 


 「……ガイさん……。」


 


 顔を上げる気力もなく呟くと、彼は呆れたように鼻を鳴らした。


 


 「負け犬みたいな顔してんじゃねぇよ。」


 


 鋭い一言が、心に突き刺さる。


 


 「お前、何のために走ってんだ。」


 


 「……っ……。」


 


 「スレイの夢を叶えるんじゃなかったのか?」


 


 


 ◇


 


 ぐらりと視界が揺れた。


 


 (スレイの……夢……。)


 


 「……でも……わたし……勝てない……。」


 


 震える声。

 握ったシーツが涙で濡れる。


 


 


 ◇


 


 「勝てない?何言ってんだ。」


 


 ガイはため息をつくと、フリアノンの頭をわしゃわしゃと荒っぽく撫でた。


 


 「勝てねぇなら、勝てるまで走りゃいいんだよ。」


 


 「……っ……。」


 


 「スレイのためだろ?

 お前が諦めてどうすんだ。

 あいつが泣くぞ。」


 


 


 ◇


 


 (……スレイが……泣く……。)


 


 涙で霞む視界に、スレイが笑っている姿が浮かんだ。

 いつもみたいに、太陽みたいに。


 


 


 ◇


 


 「……ガイさん……。」


 


 「なんだ。」


 


 「……わたし……強くなりたい……。」


 


 その言葉に、ガイは口の端を吊り上げた。


 


 「だったら、立て。

 今から特訓だ。」


 


 


 ◇


 


 「え……っ、今から……!?」


 


 フリアノンは思わず顔を上げた。

 涙で濡れた頬を拭く間もなく、ガイは仁王立ちして腕を組む。


 


 「泣いてる暇なんざねぇ。

 走れ。

 ――勝ちたいんだろ?」


 


 


 ◇


 


 震える足で立ち上がる。

 膝は笑い、体は鉛のように重かった。


 


 でも――


 


 (スレイ……見ててね……。)


 


 胸の奥に、小さな光が灯った。

 それは、諦めないという決意の光だった。


 


 


 ◇


 


 「よし、行くぞ。」


 


 ガイに続き、フリアノンは廊下を歩き出した。

 外には、夜明け前の冷たい空気と、無数の星々が輝いていた。


 


 (わたし……絶対に……。)


 


 その瞳には、敗北の涙ではなく、確かな希望が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ