第十九話:再会の火花
チェリーブロッサムカップ出走が決まった翌週、
白雷ジムのトレーニングコースは、朝から独特の緊張感に包まれていた。
「……あれ?」
フリアノンはウォーミングアップ中、遠くに見慣れた赤い機体を見つけた。
細く整えられた機体ラインと、尾翼の王家紋章。
その機体の前に立つ少女――
(マーメルス……さん……!)
◇
「ふんっ……」
フリアノンの視線に気付くと、マーメルスは長い髪を払い上げ、鋭い目線を返した。
「こんなところで呆けてる暇あるの?
あんた、クラシックに出るんでしょ?」
ツンと澄ました声。
けれどその奥に、揺れる何かをフリアノンは感じ取っていた。
◇
「マーちゃん……!」
「……っ……マーちゃん言うなっ!メルって呼びなさいよ!」
マーメルスは顔を赤くして怒鳴った。
「ご、ごめんなさい……。
でも……マーちゃんに会えて、嬉しい……。」
フリアノンは小さく笑った。
その笑顔に、マーメルスはぷいっと顔を背ける。
「別に……あんたに会いに来たわけじゃないわ。
チェリーブロッサムカップ前の調整に決まってるでしょ……。」
◇
その時、マーメルスのナビゲータースーツを着た男が歩いてきた。
「よう、ノンちゃん。」
ユリウスだった。
変わらない優しい笑顔に、フリアノンの胸がチクリと痛む。
(……そっか。ユリウスさんは……マーちゃんの……。)
◇
「ノンちゃんも調子良さそうだね。」
「はい……。」
小さく返事をするフリアノン。
その隣で、マーメルスは腕を組んで鼻を鳴らした。
「当たり前じゃない。
私とあんたじゃ、最初から勝負にならないでしょ?」
刺すような言葉。
でもフリアノンは、震えながらも言葉を返した。
「……でも……わたし……負けない。
スレイの夢……叶えるために……。
わたし……絶対に……。」
◇
その言葉に、マーメルスの瞳が僅かに揺れる。
そしてすぐに、また鋭い光を取り戻した。
「……ふんっ。夢見るのは勝手よ。
でも、現実は甘くないわ。
このわたしが、それを教えてあげる。」
そう言うと、くるりと踵を返しユリウスの方へ歩いていく。
◇
「行くわよ、ユリウス。」
「はいはい、お姫様。」
呆れたように笑いながらも、ユリウスの声は優しかった。
二人が並んで歩く後ろ姿を、フリアノンはただじっと見つめていた。
◇
(マーちゃん……。
……わたし、絶対に負けない……。)
握った拳が、震えていた。
恐怖じゃない。
悔しさでもない。
――それは、決意の震え。
スレイが目指した舞台へ。
自分の力で、辿り着くために。