第百五話「年末、再びの頂へ」
冷たい冬の風が、白雷ジムの調教場を駆け抜ける。
空気は張り詰め、吐く息は白く、地面には霜が降りていた。
年末――アースカップの季節が、またやってきた。
「……ノンちゃん、今年もやね」
ミオがモニターに映し出されたファン投票結果を見つめ、小さく笑った。
その画面には、堂々たる一位にフリアノンの名前が輝いている。
フリアノンはその結果を見ても、素直に笑うことができなかった。
(また……一位……)
もちろん嬉しくないわけではない。
応援してくれるファンの声援が、自分の力になっていることは誰よりも分かっている。
けれど、その胸には言い知れぬ重圧があった。
クロエの死から、まだ日が浅い。
ライバルであり、目標であり、共に走る仲間だった彼女を失ったレースは、フリアノンの心に深い傷を残していた。
(わたしが……走るたびに……誰かがいなくなっていく……)
マーメルスも、リュミエルも、そしてクロエも。
次は自分かもしれない――そんな恐怖が、レース前になると必ず脳裏をよぎった。
「……ノンちゃん?」
心配そうに覗き込むミオに、フリアノンはかすかに微笑んだ。
「……ごめんなさい……少し、考えごとをしていました……」
「怖いんやな?」
ミオの言葉に、フリアノンはぎゅっと唇を噛んだ。
否定できなかった。
怖い。走ることが。勝つことが。
それでも――
「……でも、走ります……」
わたしには、応援してくれる人たちがいる。
スレイプニルも、マーメルスも、リュミエルも、クロエも――走りたくても、もう走れないサイドールたちがいる。
だから、わたしが走らなきゃ。
その目に、かすかな決意の光が宿った。
「……ノンちゃん、ファン投票一位、おめでとうな」
ミオが優しく微笑む。
その笑顔に、フリアノンは小さく頭を下げた。
「ありがとうございます……」
アースカップ――地球圏最大の祭典。
このレースで勝つことができれば、自分の存在はさらに大きくなる。
でも、それ以上に。
このレースで走る意味を見失いたくなかった。
(わたしは……わたしのために……走る……)
自分自身の足で、恐怖を超えていくために。
その夜、寮の部屋でひとり布団に入ったフリアノンは、天井を見つめながら静かに目を閉じた。
(みんな……見ていてください……)
吐息のような祈りが、冬の冷たい空気に溶けていった。




