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サイドライブ  作者: 碗古田わん


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第百一話「記者会見」

 皇帝杯(秋)の熱気が冷めやらぬ夕刻。レース後恒例の優勝記者会見が、地球圏最大の競技会館で行われていた。


 白雷ジムの勝負服をまとったフリアノンが、ナビゲーターのミオと共にステージ中央に立つ。無数のフラッシュが彼女を照らした。


(まぶしい……)


 記者会見は何度も経験しているはずなのに、慣れることはなかった。視線が集まるたび、胸の奥がひやりと冷える。


「それでは、フリアノン選手、皇帝杯春秋連覇おめでとうございます!」


 司会者の明るい声に、拍手が湧き上がる。


「ありがとう……ございます……」


 震える声。隣でマイクを持つミオがそっと微笑む。


「ノンちゃん、深呼吸し」


 小さく頷き、フリアノンは肺いっぱいに空気を入れた。落ち着け。わたしは……勝ったんだ。


「それでは各社さん、質問をどうぞ」


 一斉に上がる記者たちの手。その中の一人が立ち上がった。


「スポーツスター新聞の田辺です。今回のレース、最終直線で一気に四機を抜き去る末脚は圧巻でした。最後尾から行くことに迷いはありませんでしたか?」


 フリアノンは少しだけ考え、口を開いた。


「……正直、怖かったです……前回のレースで届かなかったことがあって……でも、ミオさんが……信じてくれたから……わたしも、信じようって……」


 記者たちが一斉にペンを走らせる。その音が波のように耳に届いた。


 別の記者が手を挙げた。


「サイドールタイムズの藤宮です。春秋連覇、皇帝杯二連覇という偉業を達成しましたが、次の目標は何でしょうか?」


 目標――。


 問われた瞬間、フリアノンの脳裏には、これまで走ってきたレース、戦ってきたライバルたちの顔が浮かんだ。


 スレイプニル。マーメルス。リュミエル。そして、クロエ。


 わたしの走りは、彼らがいたからこそ、ここまで来られた。


「……もっと……強く、なりたいです……。勝つためじゃなくて……わたしが……わたしらしく、走るために……」


 その言葉に、会場が少しざわついた。司会者が柔らかく微笑む。


「素敵なお言葉ですね」


 ミオがフリアノンの背を軽く叩いた。


「そない言えるようになったんやな、ノンちゃん」


 フリアノンは恥ずかしそうに俯き、小さく微笑んだ。


 次に質問したのは、別の記者だった。


「ウィニングホースジャーナルの川上です。今回、レース中にクロエ選手とアスティオン選手を一気に抜き去りましたが、ライバルたちへの思いは?」


 ライバルたち。胸の奥が熱くなる。クロエの悔しそうな顔、でも同時に光る闘志。アスティオンの無表情の奥に揺れる悔しさ。


「……クロエさんも、アスティオンさんも……強いです……。だから……負けないように……もっと、頑張らないとって……思います……」


 記者たちが再びペンを走らせる。


「ありがとうございました。最後にミオナビゲーターから一言お願いします」


 マイクを受け取ったミオは、フリアノンを見て、そして集まった記者たちに向き直った。


「ノンちゃんは、ほんまに弱虫で泣き虫で……でも、誰よりも努力する子です。これからもその努力を支えていけるように、うちらスタッフも頑張ります。これからも応援よろしくお願いします!」


 拍手が会場に響き渡る。フリアノンは緊張しながらも、その音の中に確かな温かさを感じた。


(わたし……まだまだ……これから……)


 そう思いながら、フリアノンはもう一度深呼吸した。まぶしいライトの先にいる無数のファン。その瞳に、今日の自分の走りはどう映っただろう。


 わたしは――わたしのために走る。でも、それが誰かを勇気づけるなら。


 ――それが、わたしの走る意味になる。


 そう胸に刻みながら、フリアノンは記者会見を終えた。

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