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夢で見たこと

先生!イケメンが描きたいです!

掲載日:2025/06/22

 日本で偏差値真ん中!在校生の数も平均値!敷地の広さランキングも真ん中!ぜーんぶ真ん中!その名も真中学園高等学校!


 これは青春を汗と涙と鼻水とあと欲望で駆け巡るキッズたちの物語である!



真中学園高等学校は部活動の加入は強制だが活動内容はは基本的に自由である。自由過ぎて一番人気・所属人数第一位の部活動は帰宅部だ。


 だからこそ他の部活動に所属する人間はその分野に身を置きたいと志した者たちの集まりであり熱意に満ち溢れていることでうんぬんかんぬんほにゃほにゃ・・・・・・。


 とりあえず、ご近所のお茶の間では熱意に満ち溢れて無いことも無い気がすると評判である。




 時間帯【放課後】 場所【美術室】 使用者【美術部】



 とあるショートカットヘアの少女がキャンバスを前に苦悶の表情を浮かべている。


 彼女にはどうしても表現したいことがあった。だが自身には技術がない、画力がない、年齢も足りていない。無いない尽くしだ。



 想いだけはいっちょうまえ。余りにも不甲斐ない自分に咽び泣いてから虚無の顔でキャンバスに向き合って30分。


 最初の数秒ぐらいは心配(迷惑)そうに見ていた仲間たちは既に彼女をいないものとして扱っている。その状況がさらに彼女を追い詰めていた。



 自分への失望、脳の奥から湧き上がる想い、薄情な仲間たちへの怒り。あとその他諸々を込めて窓をぶち破るが如く思いのたけを叫んだ。



「先生・・・!────イケメンが!イケメンと!イケメンする!そんなありふれた風景画を!描きたいです・・・!!」


「そうか。先生今プラモで忙しいから頑張れよ。あとPTAと予算会議が怖いから描くなら学外でチラシの裏にでも描いとけ。」




 防毒マスクをつけながらプラモデルに勤しむくたびれた男は山下千造。鼻水を垂らしながら叫ぶ女子生徒の熱尾 彩に目もくれず淡々と言うその様は到底教師とは思えない。生徒への関心が見えない。



「駄目だよ彩ちー、山センとプラモの逢引邪魔しちゃ。人の恋路を邪魔すると美術部が廃部になるんだよ」


 彩のアタオカ度が下がったのを見計らって、長身のロングヘアの少女が笑いながら声を掛ける。彩の友達の音流 恵美だ


「でも恵美!こんな可愛い生徒が困ってるのに山下先生ったら、プラモに夢中なんだもん。」 


 きゃらきゃら会話する二人に山下は口を開く。でも目線はずっとプラモデルに向けている。


「可愛い生徒だから窓開けるだけじゃなくて全員分の防毒マスクも置いてるんだよ。マスクして寝ろ。」


「えー。山下先生、今の作業マスキングですよね?別にいいじゃないですか。」


「お前らな。はあ・・・、鈴木を見習え」



 鈴木雄二。物腰柔らかで服飾系のデザインがとくいな男子学生。


 最近高二病を患った影響で、今は鏡の前でロングコート+水中ゴーグル+防毒マスクで<僕の考えた最強にかっこいいポーズ!>を試行錯誤している。


「そこで例として鈴くんを出すあたり、山センってばちょいずれてるよね」


「恵美、ごまかさなくてもいいよ。山下先生は立派な変人だよ」


「急に泣き叫ぶ熱尾ほどじゃないから。それでイケメンが描きたいんだっけ?」


 プラモの作業がひと段落しようやく生徒に向き合う山下先生は、何やかんや悪い先生ではない。

 だがその手に持つ美術解剖図と解体新書の本は彩にはいらない。


「山下先生。あたしの描きたいイケメンはその本には居ません。」


「人間描くんだからこれは間違ってないだろ。」


「確かに。彩ちーが描くイケメンってお尻が人間やめてるから。」


 彩は友の裏切りを受け、仕方なしに本は受け取るものの流れるように後ろの本棚にいれた。


「それであたしの描きたいイケメンなんですけど、こう、アニメとかマンガ的なやつなんですよ。それで耽美な感じで、背景はミュシャ的な繊細で美しい感じで・・・」


「お前な・・・。描けばいいだろう、いつも描いてるのに。何でだ?」




 ────山下は熱尾のイラストノートの中を偶然見たことがある。尻のパースが異様に狂っていることを除けば悪くない絵だった。

(見られた現場を見た熱尾はビックリチキンの顔をしていた)


 ────同人誌の表紙、挿絵を手掛けたらしく、人物画以外も描けることは知っている。

(文章は確認する前に音流が奪い去った。本を書いたのお前だったのか)


 ────落ち込んでいるが、実力以上の絵を描けないことに泣くだけの人間ではないはずだ。

(今できることを全力で、熱尾の座右の銘だ)




彩は言いづらそうにするが、伝えることを決心した。


「それは・・・」




 山下が顧問を務めている部活に所属している生徒の悩みだ。必死になって伝えようとしている生徒の悩みぐらい、時間内は皆で悩んでもいいだろうと彼は向き合うことにした。


「それは?」



 突然彩の目がグリンとまわり、やばい感じになる。どうやらアタオカ度が急上昇したらしい。

 急な豹変に、離れて様子を見ていた鈴木が冷や汗をかいている。



「それは!キャラと背景が馴染まずにクソコラみたいになっちゃうんですよ!あ”ーー!!パース!サイズ感!ぜーんぶミスマッチ!!!架空の存在を思い付きで描いてるから構図も脳みそまかせぇ!ギィー!!!」


「それは違うよ彩ち―。お尻を人間に戻したらきっとしっくりするよ」



 どうやら彩の描けない原因は性癖との兼ね合いの関係だった。



 部活動の時間も終わりだ。プラモデルの塗装は自宅でやろうと席を立つ山下に物凄い形相の彩が縋りつく。


 部内の生徒たちはキャア!と盛り上がり、山下はぎょっとして硬直するが、彼らの様子は気にも留めず彩が叫ぶ。




「先生・・・!(性癖を盛りに盛った)イケメンが描きたいんです! 」




 山下は帰った。


 音流は人間の限界(尻)について考えた。


 鈴木は怯えていた。



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