第83話 令和15年春場所
横綱43場所目のコシは、顔の怪我の具合も8割方まで回復し、幕下以下の力士とはぶちかましの稽古を再開させていた。
「コシ関!?」
「はい。」
「ぶちかましはここぞと言う時まで封印したら良いんじゃないんですか?」
「回復途中ですしね。先生分かりました。気を付けます。」
大阪入りしてからは、後輩横綱時天山とぶちかまさない立ち合いを研究していた。15戦10勝5敗と、まずまずの仕上がりであった。
「コシ!今場所は相手もお前の立ち合いを研究して来る。立ち合いの後の二の矢、三の矢が大切だぞ?」
「はい。理解しています。」
「中村?貴様今笑ったな?」
「いえ、笑っておりません。」
「横綱二場所目。優勝目指せよ?」
「はい。分かっています。」
コシは場所前の計量で、165.1kgとなり、ファイザッピのパーソナルトレーナー、フクちゃんのお陰で、減量に成功した。もっともっと落としたい所ではあるが、体重は力士の生命線。そう簡単には必要以上には落とせなかった。
「コシ?減量したのか?」
「ええ、少しばかり。」
「スピードとパワーがバランス良くなったな?」
「はい!あざっす!」
「160kg以上は保てよ?減量は良いが。」
「自慢のパワーが影を潜める様だと、ぶちかませない今のお前にとっては命とりになるからな?」
「理解しています。」
場所入りしてからはあっという間であった。初日に幕下最下位格付出しのホープ片の波をかち上げで起こし一気に突き押し、押し出しで勝利すると、横綱在位43場所で金星配給わずかに3個のコシは格下相手には徹底したかち上げからの突き押しのスタイルを崩さず中日給金直しをした。
場所後半戦も荒れる春場所で周りの3横綱が崩れていく中、コシだけは好調をキープ。13日目を終えてただ一人全勝。14日目からの横綱戦に突入した。ただ一人1敗で追うのは横綱照の山。この一番に勝利すればコシの2場所連続36回目の優勝が決まる。
「コシ関?そろそろ、ぶちかまし解禁したらどうですか?」
「あぁ、そうだな。明日の一番に勝てば優勝だからな…。って、何で付け人のひかりに言われにゃぁならんのだ!」
「相手の横綱照の山もコシ関がぶちかまして来るとは全く思っていませんよ?」
「変化してきたらどうする?」
「相手が小兵の幕内下位力士ならともかく、相手は横綱ですよ?」
「先場所大鵬は変化してきたぞ?上手く対応出来たから勝てたものの。」
「ここは注文相撲だったらごめんなさいで、正々堂々ぶちかましてみましょう!」
「俺もその案には賛成だ。」
「中村(時天山)!?」
「今の状態でコシ関がぶちかまして来るとは誰も思っていない。照の山関もそうだろう。かち上げやもろはずで来るだろうと、言う所にぶちかましが来たら腰が砕けるだろうな。その位、コシ関のぶちかましは威力がある。」
と、まぁ色々悩んだあげく、コシはぶちかましで照の山を下して2場所連続36回目の優勝を達成した。“就職場所”と呼ばれる大阪場所(春場所)は、今年は20人の若武者が角界の門を叩いた。その内3人は時津川部屋に所属する事になった。