第71話 令和14年初場所(2032年)
横綱36場所目のコシは、巡業や稽古も充分にこなして場所入りした。調子はまぁまぁであったが、そこは稽古量でカバーした。
五連覇がかかる令和14年(2032年)初場所は調整が難しい場所と言われているが、それは力士皆同じである。横綱になって6年もの月日が経ったが横綱になりたての頃とは全く環境が違う。部屋の横綱豊山や大関時天山ら後輩も角界を代表する“顔”つまりいわゆる、看板力士となり、時津川部屋は活性化された。
場所に入ってからのコシはこれらの看板力士の中でも群を抜いて強かった。怪我をしない体作りは他競技のアスリートからも一目置かれており、その強靭な肉体で優勝30回を達成するまでになっていた。中日給金直しは横綱越乃海の代名詞だが、今場所も初日から中日まで白星を重ね中日ストレート勝ち越しを達成した。大鵬や照の山らコシのライバル横綱も中日給金直しを達成。優勝争いは混沌としていた。
大関陣はベテランが多く、好調とは言えず、1敗で追う時天山に期待は集中する様だ。初場所後半戦は、三役(特に関脇)陣からコシを含めた横綱陣にぶつかる事になる。優勝の為にはこんな所と言っては失礼だが、負ける訳には行かない。そこを超えると大関・横綱戦が待っている。大抵の場合横綱戦が組まれる頃には、優勝の趨勢は決まっている事が最近は多い。尚、ゆたかと時天山はコシと同じ時津川部屋である為、本割での対戦は無い。その為この3人は少しばかり優勝に優位と言える。とは言え幕内下位の好成績力士と当てられる可能性が高く、油断は出来ない。
結局、コシと大鵬が14戦全勝で並びまたしても千秋楽相星横綱決戦となった。だが、この対戦は過去コシが2回敗れただけで、後は全てコシが勝っていると言うデータがあり、千秋楽相星横綱決戦に至っては、コシの勝率100%となっている。と、まぁこれは過去の話に過ぎず大鵬もデータ上では手痛い結果となっているが、今場所もそこそこ好調である。だが、勝利の女神はまたしても大鵬に笑顔を見せてはくれなかった。立ち合いの凄まじいコシのかち上げで一気にかっぱじかれた大鵬は、コシの怒涛の突き押しに防戦一方。何も反撃出来ずに、押し出しで大鵬は敗れた。
これによりコシは5場所連続31回目の優勝を達成した。これで優勝回数も歴代3位タイとなった。打倒コシに燃えた上位陣であったが、またしても横綱越乃海に優勝を許す結果となった。
「強い奴が勝つんじゃねぇ。勝った奴が強いんだ。」
「コシの言う通りだ。コシをギャフンと言わせて見ろ?悔しかったらな。」
「コシ関強過ぎるんですよ!」
「ゆたか?お前も同じ横綱だろ?10勝5敗じゃ話にならんぞ?」
「はい。すみません。」