第66話 令和13年名古屋場所②
守る者がいると言うのは、アスリートに限らず人を成長させる要因になる。力士も同じだ。守る者がいる力士はもっと強くなる。それをコシは体現するかの様に後半戦も白星を重ねた。
13日目を終えてコシがただ一人全勝をキープ。1敗で大鵬、2敗で照の山が追う展開となった。14日目と千秋楽はこの2人との直接対決で引導を渡したい。是が非でも勝ちに来ると予想されるが、コシはそんな事関係無しにコテンパンに2横綱をやっつけた。
どちらの横綱戦も、目の前の1番に集中したコシの勝ちであった。立ち合いは珍しくもろはずを選択。相手の勢いを止めると、そのまま神の右で休まずに大鵬を寄り切った。ゆたかも星勘定的には優勝の可能性があったが、千秋楽で敗れ後退した。とにかくコシのライバル横綱達はコテンパンにやっつけられた。今度こそ…。
「コシ関?」
「どうした中村(時天山)?」
「優勝を後輩に譲る気は?」
「全く無い。」
「ですよね。でも同部屋対決が禁止されている以上、どう頑張っても、優勝決定戦にもつれなければならないんですよね?」
「そこで勝てば文句無しの優勝じゃんか?」
「まぁ、それはそうなんですけど…。」
「直接対決無しで一番割りを食ってるのゆたかさんや俺ですからね?」
「コシ関を超える為に日々精進してるんすよ?」
「誰かが負けてくれとかそう言う他力本願では駄目なんですよ。」
「強い者が勝つんじゃない。勝った者が強いんだ。」
「時津川親方までそんな事言うんですか?」
「これは私の言葉では無い。横綱越乃海が、先代に与えてもらった唯一の教えである。」
「俺はその理だけを信じてやって来た。それはこれからも変わらない。」
「ま、俺だって人間だからな。負ける事もある。それでも俺は時津川部屋を常勝軍団に変えた。と自負している。」
「全ては親方に捧げている白星なんだけどな。」
「あぁ。先代も今の部屋の隆盛を見たら、喜ぶだろうな。」
「そしたら、いっちょ頑張りますか?」
「オー!」
こうして、コシは2場所連続28回目の優勝を達成した。