第64話 令和13年夏場所②
やはりコシの強さは別格だった。産休明けの場所でもコシの強さは際立っていた。横綱大鵬や新横綱の照の山でさえ全く手が付けられなかった。結局終わってみれば、完全復活を印象付ける優勝を達成した。3場所ぶり27回目の優勝であった。
「誰だ?雲竜型の横綱が短命だなんて言ったのは?」
「コシ関は例外なんじゃないですか?」
「ふっ。まぁな。」
「まさかの産休だなんて、心土俵にあらずでしたね。」
「良いじゃないですか?家族思いで。」
「コシが不在の間にまた横綱が一人増えちまったじゃねーか?」
「照の山は昔から強かったですよ?」
「まぁな。花のフタマル組(コシの同期)でも存在感を示していたからな。実力者ではあった。」
「コシは家族が増えたからもっと強くなるぞ?誰も手が付けられなくなる。」
「ゆたか?お前も婚活しろ!」
「それマジで言ってます?」
「強くなるぞ?」
「この自分が堅物だって事は知ってて、それ言ってますよね?」
「まぁ、守るものが出来るとゆたかの様なタイプは化けるかもな。」
「さぁて、何に化けるか?」
「そんな事言ってるから優勝出来ないのと違うか?」
「でもコシ関には本当頭上がんないっすよ。この部屋の連中は。」
「じゃあ次は時天山の番だな!」
「自分は9・6の大関辺りで充分なんですけどね?」
「その四股名でその目標は先代に呪われるぞ?」
「でも、今は4人も横綱がいるんですよ?」
「強けりゃ何人いても構わないさ。そんな人数の制限はないからな。」
「それに横綱とは名ばかりで大関クラスの実力しかない横綱がほとんどですからね?」
「それを言っては駄目ですよ?コシ関が悪魔的強さを誇っているから、そんな風に見られるんですよ?」
「それは悪魔に失礼だ。」
「まぁ、コシ関は稽古量が違いますからね。」
「努力=天才だからな。」
「お前らも、コシを見習って稽古しいや。」
「はいっ!」
「時津川部屋のちゃんこは他の部屋のちゃんこより数十倍豪華なんだぞ?」
「毎場所の様にコシ関が優勝してますからね。肉も魚も米も野菜も上質な物ばかり。」
「米は新潟県魚沼産コシヒカリ100%。野菜や肉や魚もコシが優勝する度に獲得する副賞がほとんどなんだ。それでも、時津川部屋だけでは食べ切れないから、時津川一門の部屋にお裾分けしている位だからな。」
「捨てる訳にもいかないからな。」
「横綱越乃海と稽古したくて今じゃ年間50人のペースで入門するが残るのはその1割かな。」
「そういやぁ力士増えたな。」
「強い横綱や大関がいるだけじゃなく、日々の飯目当てで入門して来る奴もいる。でも、時津川部屋は稽古量が半端ないからそう言う理由だけで入門してもすぐに辞める。」
「まぁどの部屋も同じだからなそれは。」
「と言うか、何でコシは横綱なのに付け人1人なの?」
「え?一人いりゃあ充分だろ!?」
「越光にかかる重圧を分散させようと言う気持ちは無いの?」
「そうなんか?ひかり?」
「いえ。自分は横綱を一人でこなして任せてもらい強くなって来たので、プレッシャーとかはありません。」
「と言う具合だ。付け人が多いから良いって訳でもないしな。」
「やっぱり横綱越乃海は、規格外だな。」