第63話 令和13年夏場所①
横綱32場所目のコシは妻であるゆいPの出産が予定より約2カ月も早く済んだ為、3場所ぶりの出場を場所直前に表明した。三つ子の赤ん坊は、全員元気で取り出された順に長男、竜一次男、竜二、三男、竜三と命名された。
「ただいま!って汚な!?」
「ごめん、掃除全くしてなくて。」
「メールしといたじゃん?赤ちゃん来るからパパ綺麗にしておいてねって?」
「30分時間くれ。即座に片付けるから。」
「はぁ?何このキッチン?超絶散らかっているんだけど?」
「それは10分でなんとかするから、リビングは綺麗だからそこで待ってて。」
「本当だリビングは綺麗だ。」
…1時間後。
「「やれば出来るじゃん。パパ?」」
「うん。まぁね。じゃあ俺稽古に行くからよろしくね?それからゆいP一人じゃ大変だろうからベビーシッターを雇ったんだ。裕子さんです!」
「よろしく。あ、本物のゆいPだ!」
「それは助かるわ。裕子さんよろしくお願いします。」
「じゃあ赤ちゃん達の入浴済ませて、ミルクをあげて寝かしつけましょうか?」
「はい。裕子さん手慣れてますね?」
「まぁこれでも40年助産師してましたから。」
「じゃあ大人も食事をしましょうか?」
「え?そんな事まで?」
「横綱がオプション料金払ってくれましたから。」
「はい。何かしてやったり感が強いわね。」
「何か?」
「あぁ~いやいやこっちの事です。」
そして迎えた令和13年夏場所、西の張り出し横綱の越乃海は初日休場明けだが、いきなり小結千曲川と対戦。押し込まれたが土俵際鮮やかに突き落としで白星発進。新横綱の照の山は、初日黒星発進。いきなり金星配給と今後が不安な立ち上がりとなった。コシはそんな事とはつゆ知らず、中日給金直しと絶好調で休場明けとは思えない内容で白星を積み重ねていた。一方注目の新横綱照の山は6勝2敗で中日を折り返した。初日の金星配給が痛かった。4横綱2大関で行われている、令和13年夏場所は上位陣の星の潰し合いにより、平幕や三役にも優勝の可能性が無いわけでは無い。
「ただいま。」
「あら、コシ関。おかえりなさい。」
「あれ?ゆいPと我が子は?」
「今ね入浴中なんですよ。」
「裕子さん?ちょっとサボってないで手伝ってよ?」
「はぁい。今行きます。」
「パパだぞ竜一!」
「ちょっと!手洗いうがいはしたの?汚い手で触らないでよね。」
「洗って来たさ。汚い手って何だよ!」
「いろんな人を突っ張るんだから汚い手じゃない?」
「まぁ、それは否定出来ないが、でもちゃんと裕子さんの前で洗ったよ?ねぇ?裕子さん?」
「ええ。横綱は手指消毒までされていました。」
「手は商売道具なんだ。他のどんな力士よりも綺麗だよ?」
「お、竜二の奴飲みっぷりが良いな?」
「3人もいるから、私の御乳だけじゃ足りなくてね。人工ミルクに頼らざるを得ないのよね。まぁミルクに関しては裕子さんに頼みっ放しなんだけどね。」
「本当に助かってます。裕子さん。」
「竜一!竜三!今日の取組見てぇか?父さんの豪快な寄り切りを!」
「未熟児が分かるわけ無いじゃない。」
「今のうちから英才教育だ!」
「やだ、力士にはさせないわよ?」
「それは個人が決める事だ。親は子のやりたい事を尊重するべきだ。でも、父さんの血を受け継いでいるんだ。一人位は相撲取りになりたいと思う子が出てもおかしくは無い。」
「ゆいPとしてはどうその辺?」
「まぁ、親が押し付けるのは良くない事だと思うわ。」
「俺もその意見に賛成だ。3人の子にはやりたい事をやらせたいと思う。」