第61話 令和13年初場所(2031年)
横綱30場所目のコシは、怪我も病気も無く新年を迎えた。稽古量もいつもと変わりなかった。状況がおかしくなったのは場所入り後の事。
初日、猿飛の変化に屈し横綱5年目で初めて金星を配給すると、3日目までに3連敗。そのまま途中休場となった。
「コシ関、どうしちゃったんですかね?」
「さぁな?餅の食いすぎじゃねーか?」
「こうなったら優勝戦線は分からなくなったな?」
「実力的には2横綱が先行して、大関照の山関や時天山が追走して…。」
「ひかり!妄想は良いんだよ。強い奴が勝つんだよ。」
「そうそう。コシ関にはゆーっくり静養してもらってだな…。」
「ていうか、怪我もしてないのにあのコシ関が、初日から3連敗して途中休場なんてらしくないっすよ。」
「我が子の事でも気にしたか?」
「親方?それでコシ関は何故こんな不調に?」
「まぁ、これは俺の憶測だが数場所の休場となる。コシからは産休の申し出があった。私としては、万全の状態で出場出来るまでは休場させる旨を相撲協会に打診し、即日受理された。」
横綱越乃海2〜3場所産休か!?列島にその衝撃が走ったのは令和13年初場所5日目の事であった。
「怪我もしてないのになんか変だとは思ったが、産休とはな。」
「家庭不仲説もあるが、それは休場の理由にはならへんやろ?」
「良いんですか?コシ関?色々言われてますけど?」
「ひかり?こう言うのはな、伝えなきゃいけない人には伝える。どうでも良い人には伝えない。そうやって乗り越えて来たんだ。過去の横綱も自分も。」
「堂々と言い張ったら良いと思いますよ?心無い人はコシ関が不祥事でも起こしたのか?なんて言ってくるかも知れませんよ?」
「言わしとけ、言わしとけ。我が子が心配だから休場してまで嫁の付き添いなんかしてるなんて知られる方が、恥ずかしくて顔から火が出そうだわ。それに、角界もニュースターが必要だろ?」
「ニュースター?」
「ここ2〜3年横綱も大関も誕生してないだろ?」
「まぁ、確かに。」
「だろ?この俺の休場がカンフル剤(起爆剤)になってくれると信じてるよ。」
横綱越乃海休場から10日後、大関照の山が、2横綱らを撃破し初優勝を達成した。13勝2敗とコシのレベルには達していないが、優勝は優勝。来場所は綱取りである。
「なぁ、ゆいP?俺土俵に戻った方が良いかな?」
「私コシ関のホントに強い相撲知っているから、この子たちがきちんと生まれたらその時はちゃんと土俵に戻って!」
「なんだ。ゆいP俺に付いていて欲しいんじゃん。」
「3人もお腹の中にいるのよ?それは心配も3倍に膨らむわ。」
「分かった。しっかりサポートする!」
「おお、コシ関!?心配してましたよ?」
「あのな、俺の休場中に時津川部屋から優勝者が出る事を期待したんだが、何だこのていたらくは?」
「中村(時天山)、ゆたか(豊山)稽古つけてやるからまわしをしめろ!」
「今からですか?」
「そうだ今からだ。」
「辞めとけ、コシ。気持ちは分かる。」
「親方!自分悔しいっすよ!」
「何ならのんきに産休なんてしてないで、テメェが出て優勝してみせろ!」
「そんな言い方無いでしょ?」
「コシ!貴様が弟弟子に言っている事はそう言う事なんだぞ?」
「はい…。」
「とにかく休場明けからはしっかり優勝して貰うからな?」
「分かりました。」