第54話 令和12年夏場所①
横綱26場所目のコシはおかみさんのお陰で何とか場所に間に合った。新型コロナウィルスに感染したので、他の力士にうつす訳にも行かず迷わず入院した。
2週間近くに渡った入院生活で時津川親方の代わりに、おかみさんである結衣さんが看病…と言うか世話をしてくれた。
「おかみさん、すみません。」
「何を言ってるんだよ?部屋の大切な看板横綱の一大事だよ?何も悪くはないよ。」
「すみません。」
「天下の大横綱もお嫁さんの1人はいても悪くないわね。」
「すみません。そっちの方はからきしで。」
「将来部屋を持つつもりならお嫁さんは必須条件だよ?まぁ、まだ若いんだ。しっかり品定めしてじっくり決めるも良し。即決しちゃうも良し。悩むなら相談くらいいくらでも聞くよ?」
「はい。ありがとうございます!」
時津川親方には頭が上がらないがおかみさんはそれ以上だ。コシは異性の事となると、土俵での強さが嘘の様にマウントを取られてしまう。もちろん童貞だし、キスすらした事は無い。まぁ、そんな事は置いておいて令和12年夏場所が始まった。
上位陣が順当に勝つ中、波乱があった。初日小結無双山戦でコシが押し出しで敗れたのだ。連勝は135でストップ。実に10場所ぶりの黒星であった。初日に敗れたのはかなり久しぶりであった。それでも2日目から立て直し7勝1敗で中日を折り返す。好調だったのは中日給金直しの大関時天山であった。コシ不調と言う事を知るだけに、場所前の突貫工事ぶりからも、コシの体調不良は知っていた。バタバタと崩れるかと思いきや流石は9場所連続優勝の大横綱越乃海。横綱大鵬やゆたかも7勝1敗とまずまずの滑り出しであった。
「え?彼女?いませんよ?そう言う機会もありませんしね。」
「だよな。現役中に結婚出来る奴の底が知れないな。」
「コシ関?後の先じゃ彼女出来ませんよ?」
「確かにな。」
「合コン行きましょう!」
「ゆたか?場所中だぞ?」
「こういう時こそ癒しが大事っておかみさんも言ってましたよ?」
「おかみさんが!?」
「そうは言ったけどね。私はコシ関の優勝が見たいだけ。」
「なんすかそれ?場所中に彼女作れと?」
「それで調子が良くなるならね。」
「よく分かんねーな。俺、現役中は彼女とか無理だわ。」
「何でそうなるんですか?」
「だって調子狂うから。」
「初日に負けたのは体調不良で調整不足だったからで、心の乱れではない。いつもなら楽勝な相手なのに。」
「コシ!ちょっと来い!」
「時津川親方!?」
「コシ?お前本気で結婚する気はあるか?」
「ありますよ。」
「ならばこの時津川の名にかけてコシに最適なお嫁さんを探してやる。」
「マジすか?」
「少し時間はかかるがな。だから安心して相撲に集中しろ!」
「はい。分かりました。」
「コシ関マジでそっちの方は弱々なんですね?」
「無理も無い。15歳でデビューし、17歳で横綱になった奴だぞ?危うく相撲と結婚させる所であった。心配いらん。候補は手に余る程いるからな。結婚したらコシは更に強くなる。」
「人の心配していたけど、コシ関よりゆたかの方が年上何だよな。俺も身を固めるか。」
「ついでだしゆたかも面倒見てやろうか?」
「いえ、自分は自分で処理しますから。」
「処理とは何だ?ゴミじゃねーんだぞ?」
「横綱越乃海を超える為に結婚が必要ならば、もうとっくにしてますって。」
「そうか?ゆたかはコシの足元にも及ばないと世間は評価しているが?」
「それは分かってますよ。」
何だか横綱豊山は歯切れが悪かった。