第46話 令和11年名古屋場所
横綱21場所目のコシは期待の若手である、中村改め二代目時天山と熱心に稽古をしていた。
「中村?その四股名を継ぐって事は、意味分かっているよな?」
「先代の時津川親方の現役中の四股名って事くらいは知ってますが?」
「どうやら全く理解していない様だな。おい、ゆたか?10番くらい遊んでやれ。」
「どうした?どうした?二代目はそんなもんか?」
今場所が新入幕の23歳は入幕決定後に四股名について、時津川親方やコシやゆたか等関取衆で話し合い、中村の実力や将来性を加味し先代の時津川親方の四股名である時天山の四股名を名乗っても良いのではないかと言う運びになった。
「その四股名は横綱になれる人にしか与えられない特別な四股名なんだよ。もっと立ち合いを鋭く、その体があるんだから、思い切りぶちかまして行け。」
「はい…。」
「どうした?もう終わりか?先代はお前の10倍は稽古してたぞ!」
「はい…。」
コシの時天山に対する指導は現役横綱とは思えない力の入れようであった。
そして場所入り。コシは猿飛を押し出しで破り初日白星発進となった。時天山も土佐の山を注文相撲で破り白星発進した。コシに何か言われるかと思ったが、コシはあえて何も言わなかった。その後にコシは中日給金直し8連勝で場所前半を乗り越えた。時天山も7勝1敗でゆたかと共にコシを必死で追いかけた。
時天山は9日目に勝ち越しを決め、13日目までは1敗を守った。しかし、コシはその上を行っていた。今場所は横綱大鵬の調子も良く全勝をキープ。14日目、1敗のゆたかは大鵬と、コシは大関安高と。そして時天山は大関照の山戦に抜擢された。結果としては、越乃海と大鵬の横綱同士の全勝相星決戦となり、1敗のゆたかや時天山の優勝の可能性は無くなった。
そして、千秋楽。これより三役に抜擢された時天山は連日の大関戦(安高戦)が組まれた。ゆたかは大関無双山戦が組まれた。
「時天山の奴、やるじゃないか。大関安高を倒して14勝1敗とは。流石名門時津川部屋の期待の若手。」
「横綱豊山も越乃海と同部屋じゃ無ければな。優勝のチャンスあったと思うんだが。」
「残すは結びの一番だけか。どっちが勝つんやろな?」
「お兄さん?勉強不足やで?99%横綱越乃海でしょ。」
「まぁ、確かに大横綱の地位を越乃海が確立しているのは確かだが、相手も横綱。そう簡単に勝てるか?」
と、コシは大鵬との横綱千秋楽全勝相星決戦を制し5場所連続18回目の優勝を達成した。
「これが横綱越乃海なんですね?」
「そうだ。まぁ、三賞を総なめにした時天山も流石だな。ま、気にすんな。コシ関は次元が違うから。」
「普通ならば14勝1敗って優勝ラインですよね?」
「いや、越乃海の場合15戦全勝優勝が優勝ラインだな。尚且つ優勝決定戦をも勝つ。それがコシ関の優勝ラインだ。」
「そんな事より、祝勝会の準備だ。行くぞ時天山!」
「はい!」
「今年も暑かったけど、15日間お疲れ様でした。私に関しては18回目の優勝を達成し、非常に嬉しく思っております。それでは皆様乾杯!」
「こんなの初めてですよ。ゆたか関?」
「幕の内力士の特権だな。十両でも時津川部屋では裏方に回るからな。時天山も主催する側を目指せ。」
「はい。稽古稽古稽古。」
「あれ?コシ関は?」
「鉄砲打ってるよ。」
「マジすか?恐れ入るわぁ。」
「この貪欲さが横綱越乃海の強さの秘訣だ。」