第2話 稽古の様子
幕内力士とは言えまだ17歳の越乃海の稽古は基本に忠実であった。相撲の基本は四股、摺り足、鉄砲であり、今は下半身強化の為に四股を徹底的にやっていた。
先代時津川親方から、強くなりたいならば、とにかく四股を踏め。と口酸っぱく言われていた。1日平均300回。多い時は400~500回は四股を踏んだ。後は、兄弟子の元大関勝大兄さんとの申し合わせや、関取昇進を目指す同年代の力士とこれでもかと言う位に稽古した。100番は当たり前の様にこなしていた。
「まだまだまだ。ウッシ!」
「越乃海はまともじゃねーな。」
「だからこの若さで幕の内にいるんだよ。」
「なるほど。」
そして思いっきり稽古したら、風呂に入り昼飯(朝飯兼)を食べ昼寝。そして起きたら夕飯までまた稽古をする。あまり太ると出足が鈍くなるので食べすぎ注意。時津川親方からはもっと食えと言われるが、激しい稽古の後のちゃんこは喉を通らない。
「おい、コシ(越乃海)!勝大の方が食ってるぞ?負けるな!」
「は、はい。」(ウェ。もう無理。)
大きな怪我も無く一気に若手のホープとして期待された令和7年名古屋場所は、西前頭8枚目に微増。幕内二場所目なので土俵入りやその他諸々の所作は手慣れたものである。暑さにも負けずコシの調子は良かった。足も前に踏み込めるし、突き押しも良い感じだ。コシが気を付けたのは、先場所負けた相手に負けない事である。
中日8日目に無傷の8連勝で給金を直す(勝ち越す)と、10日目に大関戦に抜擢。相手は今横綱に最も近いと言われる東の正大関豪昇龍(モンゴル・立波部屋・27歳)で、星の差は一つであった。コシはこの難敵にも勝利し、初優勝に近付けるか?式守伊之助が合わせる土俵は制限時間一杯。はっけよいの声と共に、コシは豪昇龍にガツンとぶちかまし、一気に土俵際まで追い込む。師匠からは相手は勝負が終わるまで何をして来るか分からないから気を付けろ、とやや、警戒気味だった。しかし大関は17歳の越乃海の出足に一気に持っていかされるや否やコシの腕を手繰り土俵際とったりに出ようとするも、その前に大関は土俵を割っており、勝負あり。コシは見事に大関戦初挑戦初勝利をした。決まり手は寄り切り。これでコシは10連勝とした。
その翌日は横綱戦が組まれた。一人横綱で8勝2敗の貴乃富士と対戦した。コシは立ち合いから激しい突き押しで一気に横綱を圧倒。一気に押し出して11連勝とした。また、これにより17歳1ヶ月の金星獲得最年少記録を作った。そのままの勢いで千秋楽まで連勝をキープ。14連勝で同じく全勝の大関安高との相星決戦となった。すでに1横綱1大関を倒している越乃海は、プレッシャーや気負いもなく土俵に上がれていた。その相撲を見ていた大関安高は、立ち合いから右にずれて、コシの突き押しはかわしたが、安高苦手の寄つに組む事になってしまい、右寄つ左上手になったコシに一気に寄り切られた。見た事もない懸賞金を受け取った瞬間にコシは幕の内最高優勝を果たした事が理解出来たのであった。