第28話 令和9年秋場所②
今のコシに勝てる力士はいないのか?1敗で追いかける横綱大鵬も大関照の山も、新関脇の豊山も星の潰し合いで、1敗を堅守したのは横綱大鵬だけであった。千秋楽結びの本割でコシに勝ち優勝決定戦に持ち込みそこでも勝つ。それしか横綱大鵬の優勝プロセスは無かった。迎え撃つコシもせっかくここまで74連勝してきたものに土をつけたくは無かった。
令和9年秋場所、前頭4枚目の勝大兄さんは8勝7敗で勝ち越し。豊山は新関脇で見事に11勝4敗と、大関への起点を作った。
「コシ関、あと1勝すね?」
「あぁ、この一番に勝てば残すは九州場所のみだ。年間負け無しの90連勝。ここは同期とは言え、横綱大鵬に負ける訳にはいかない。」
「力の差を見せてやれコシ。ただ相手も13勝1敗で来てる。決めるなら本割で決めろ!」
「トヨ?そんな当たり前の事しか言えないから、十両定着出来ないんだよ?」
「我なりに励ましたつもりだったが、19歳の大横綱には励ましなどいらんかったか?」
「戦いの前に励ましなんざいらねーっすよ。今俺誰にも負ける気しないんで。」
「正に無双モードって奴か?」
「いつも通り、勝ってくるだけっすよ。」
「負けたら承知しないぞ?」
「御意。」
第39代木村庄之助が千秋楽結びのふれを告げると、打倒コシに燃える西の正横綱大鵬と、今年はまだ負け知らずの東の正横綱越乃海が土俵に上がった。コシと大鵬への声援は6対4でコシ優勢であった。が、ファンとしても、そろそろ越乃海一強を崩して欲しいと言う声も無くはなかった。
塩をまき、仕切りを重ねる大鵬とコシ。呼び出しが立ち上がり、タオルを貰ったコシは顔を少し拭き綺麗に折り畳んで呼び出しに渡した。東の花道で優勝を祈るトヨと目があった気がして、頷いた。そして土俵に向かった。
「待った無し。手をついて!」
コシは余裕があるのか先に手をついて大鵬の出方を伺っていた。
「変化はねーよな?」
「はっけよーい。のこった!のこった!」
立ち合い成立。コシはフルパワーでぶちかまして大鵬に何もさせずに電車道で大鵬を押し出した。これにより、コシは6場所連続10回目の優勝を果たした。
「横綱おめでとうございます!」
「ありがとうございます。」
「来場所はいよいよ6場所全勝優勝の締めの場所ですね?」
「はい。今の自分の目標はそれですから。」
と、まぁインタビューアーが沢山来たが、全部トヨに任せて、風呂場に一旦消えた。もちろんセレモニーにはいつも通り出た。越乃海は必ず優勝した時は汗を流してからまわしを締め直してセレモニーに出ると言う例のないスタイルで自らを優勝達成者として、神聖な者として捉えていた。
「おい、コシ!」
「どうしたんですか?時津川親方?」
「いつもセレモニーの後に風呂に入れと言っているはずだが?」
「誰が決めたんですか?そんなルール?」
「いや、まぁそう言うのが通例になっていてだな…。」
「誰かに迷惑かけましたか自分?」
「まぁ、それは何とも言えないな。」
「じゃあ良いじゃないですか?優勝ってのは神聖なものですから。体も心も綺麗にしておかないと。」
「この生意気さが無けりゃ若くてイケメンだし、もっと人気出るんだがな…。」
と、時津川親方は嘆いていた。