第26話 令和9年名古屋場所②
13日目終了時点で優勝戦線に残ったのは横綱越乃海、横綱大鵬に、大関安高と小結豊山の4力士であった。豊山は既に三役以上との対戦を終えて12勝1敗。同じく横綱戦を終えている大関安高も12勝1敗。まだ直接対決を残している横綱大鵬と横綱越乃海は共に13連勝。
14日目の対戦相手は、豊山が元関脇の前頭上位の無双山戦。大関安高は関脇琴羽黒と。横綱大鵬は大関若本夏と。コシは横綱豪昇龍休場の為、平幕下位ながら11勝をマークしている新生?2代目北の湖とそれぞれ対戦。
14日目の星勘定次第では千秋楽優勝決定戦にもつれ込む可能性もあり得る。そして、取り組みは進み、先ずは小結豊山が13勝目の白星を上げた。これにより14日目での優勝決定は無くなった。大関安高は関脇琴羽黒に寄り切られ、痛恨の2敗で優勝戦線から脱落した。横綱大鵬は大関若本夏を強引な上手投げで下して14連勝し全勝を守った。そして、コシも2代目北の湖の挑戦を退けて全勝をキープした。
この結果千秋楽結びの一番で14連勝している横綱大鵬と横綱越乃海の直接対決が濃厚となり、豊山と安高の優勝の可能性は無くなった。
「本当、大人げ無いよな。」
「まぁ、そう言うなって。強い力士が偉い実力主義の世界なんだから。」
「今日やっと勝ち越した勝大兄さんが言うセリフとは違いますよ。」
「これでまた上位総当たりの番付に戻るよ。」
「良い事じゃないですか?コシ関の永久露払いよりは?」
「あのな、俺も33歳で若くないんだ。だから余生は幕内下位でブイブイ言わせてよ?」
「向上心がまるで無い。あれを見習って下さいよ!」
「コシ?何してる?」
「就寝前に時間あったので四股を100回ほど。そんな大した事では無いっすよ。」
「流石、10代で綱を張る奴は違うね。」
「相手を研究するのも良いけど、最後は己の強さですから。」
「明日、大鵬戦だろ?早く寝ろ!」
「はい。」
そして迎えた令和9年名古屋場所千秋楽。過去一度も負けた事は無い横綱大鵬との2場所連続の千秋楽横綱全勝相星決戦。勝負は熱戦になった。先手を取ったのは大鵬。もろ手突きからコシのお株を奪う様な突き押しでコシを土俵際に追い込む。しかし、そこは百戦練磨のコシ。大鵬の前みつを取ると、それを起点に逆襲。巻き変えて得意の右寄つに。粘りを見せた大鵬だったが、両まわしを取られては分が悪かった。1分30秒の熱戦を制したのは今場所もコシだった。これにより5場所連続9回目の優勝となり、二桁優勝に王手をかけ、初場所からの連勝を60とした。
優勝パレードの相方は来場所新関脇が濃厚な豊山が2回目を務めた。
「コシ関、圧巻でした。」
「何言ってるんだよ?お前だってあと一踏ん張りだったじゃねーか?」
「いや、自分はまだまだっす。」
「早く優勝出来ると良いな。」
「コシ関を倒して優勝します。」
「時津川一門期待のホープなんだから、もっと目標は高く持てよ?」
「はい!」
「先ずは大関だな。優勝なんてオマケみたいなもんだ。」
「そう言うものですかね?」
「そう言うもんだ。」
「稽古の相手ならいくらでもしてやるから。」
「ありがとうございます。さぁて、行きますか。」
と言って部屋でのお馴染みになった優勝祝賀会に顔を出した。