第25話 令和9年名古屋場所①
夏の巡業や稽古も怪我無く過ごせた越乃海は横綱9場所目で5場所連続9回目の優勝に向けてコツコツ虎視眈々と全勝優勝を狙っていた。
そのコシを追う2横綱のうち豪昇龍は右膝の怪我で休場を余儀なくされていた。大鵬は好調の様であった。大関陣も打倒コシを目標に稽古に励んでいた。新三役で小結の豊山ももしやもすれば優勝決定戦でコシと当たる可能性は無くはない。
場所の前半戦を引っ張ったのはやはり、2人の横綱であった。初日から8連勝で給金を直すとそこに1敗で小結豊山や、大関照の山が追う展開で名古屋場所は中日を折り返した。
「コシ関!」
「おう、どうした豊山?」
「実は体重の事で御相談が…。」
「体重増やしたいんか?」
「はい。」
「今何kgあるんだ?」
「165kgです。」
「身長は?」
「185cmです。」
「俺はこれ以上体重を増やす意味を見出だせないが?」
「コシ関みたいに天才的な技術が自分にはありませんから…。」
「まぁな。幕の内上位となると、もう1段階パワーや馬力が欲しくなるのはよく分かるよ。」
「1敗で追ってはいますが、パワー不足は否めないかと。結果だけ見ても内容が伴っていないかと思います。」
「トヨ?お前どう思う?」
「豊山関はどちらかと言えばパワータイプの力士なのでもう5〜10kgは増量しても良いかと。」
「そこが増えないんですよ!」
「稽古に筋トレを採り入れてみては?」
「そうですね。筋肉の5キロはぜい肉の5キロより質が違いますもんね?」
「ちゃんとちゃんこも食ってたんぱく質も取れよ!まずは少しずつやってみろ!」
「はい、ありがとうございました!」
「あいつ、確か勝大兄さんと同じ大学だよな?」
「はい。東京能業大学です。」
「じゃあ年齢は24歳位か?」
「そうですね。」
「いくら兄弟子とは言え、年下の横綱に教えを請うなんて謙虚ていうか、プライド捨てないと出来ないぜ?」
「それが良い結果に繋がっているんじゃ無いですか?」
「とにかく、あいつは強くなるぜ。」
「はい。」
「だから、下半身の筋肉をつけるなら、四股・摺り足。これは相撲の基本。昔から言ってるだろ?」
「豊山の奴、時津川親方にも相談したんですかね?」
「まぁ、気持ちは分からなくもないがな。」
「え?超スピード出世で、土俵に上がって皆勤した場所では負け越しの無い史上最強横綱越乃海が言うせりふとは思えませんが?」
「その強さの裏にある肉体改造と言う決断があった事をトヨは知らないもんな?」
「そう言えばガタイが更に良くなった様な気が?」
「今、俺の体重何kgあるか見たら驚くぞ?」
「155kg!」
「ブブー。何で痩せてるんだよ?正解は170kgでした。入門時は150kgだったからこの2年で20kgも増量した事になる。まぁ、太れば良いってもんでも無いがな。」
「やはり稽古の賜物ですか?」
「そうだな。パーソナルトレーニングを採り入れて、食事管理や色々頑張って仕上げた身体だからな。」
「だから、怪我をしないんですね?」
「まぁ、これは持論だが、怪我をする奴は弱い。本当に強い力士は怪我をしない。」
「それ、何処かで聞いたセリフですね?」
「とにかく鍛えまくらないと横綱でも負けるからな。それは怪我や引退に繋がるからな。モンゴル人に奪われた数々の記録を日本人のこの俺が取り戻す。その使命感だけで俺は土俵に上がり続けるのさ。」
「そう言えば、コシ関が負けた所最近全く見てない気がします。」
「そりゃあそうだよ。年間90連勝の最中なんだから!」