第24話 令和9年夏場所
大した怪我をする事無く春巡業を終えたコシは、東の正位で夏場所を迎えた。横綱8場所目ながら4場所連続8回目の優勝を目指す。今年の目標である年間負け無し90連勝の目標は、順調に行けば夏場所千秋楽で前半の45勝に達する事になる。
コシの調子は絶好調であった。稽古で鍛え上げた肉体から繰り出す馬力のある突き押し。そして“神の右”とも言われる右寄つの型を持っている。コシは18歳最後の本場所をしっかり優勝で締めくくりたい。と考えて厳しい稽古にも耐えて来た。他の2横綱も軒並み調子は良く、稽古充分と言う話であった。
越乃海の後輩の豊山は番付を駆け上がり、前頭筆頭まで上がり、6枚目の兄弟子勝大を抜き去った。初日からいきなりの上位戦でも、コシに教わった先手必勝の突き押しで、番付上位力士に対抗して白星を重ねた。
コシも豊山の活躍に負けてはいられない。ぶちかましからの突き押しで初日から順調に勝ち星を13勝きっちり並べ今場所も優勝戦線にしっかり顔を出して来た。追いかける2横綱はピリッとせず、10勝3敗と早々に優勝戦線から離脱。コシに付いて来たのは1敗の大関安高と平幕の豊山であった。初優勝を狙う2力士とは違い、もう複数回優勝の美酒の味を知るコシにとっては得意にしている横綱戦に勝ち全勝優勝をしたい所である。
まずは横綱豪昇龍戦。コシは組まれると必殺の投げがある豪昇龍に対して、徹底的に突き押しで対抗。その馬力ある押しに徹底された豪昇龍は何もなす術もなく敗退。これで14連勝とした。
千秋楽はまだ幕の内では負けた事は無い横綱大鵬との一番となった。既に大関安高と豊山は14勝1敗で横綱越乃海の結果待ちをしている2力士は横綱大鵬の勝利だけを願っていた。第39代木村庄之助の千秋楽結びのふれで、いよいよ夏場所はフィナーレを迎える。勝ち方を知っているコシにとって、自らの怪我の隙に上がって来た横綱との格の違いを見せつけたいコシと、確かに大鵬の強さは認めつつも、コシは全く質の違う横綱として、相撲を取って来た。
確かに大鵬は強い横綱だしネームバリューも抜群だ。しかし、今のコシからすれば、相手ではない。年齢はコシよりも3歳上だが、前相撲から最速で横綱に駆け上がった中卒叩き上げのプライドがコシにはあった。勝大兄さんとの激しい稽古で今時津川部屋には豊山(4代目)と言うスター候補生もいる。部屋の力士の為にも日本一の力士として現役であり続ける限りは、最強でありたい。その最強の証明こそが勝利であり優勝であると考えている。
前人未踏の年間90連勝。先ずそれをモチベーションに今は一番一番の相撲に集中している。その為には落とせない一番ではあった。安高と豊山には申し訳ないが。
「はっけよーい。のこった!のこった!」
と木村庄之助の馬鹿でかい肉声が観衆の沈黙を切り裂く。固唾を飲んで見守るコシのファン。そして大鵬のファンもetsetora。コシはかち上げからの右もろはずを選択。大鵬の弱点である左サイドを一気におっつけ快勝。3場所連続の全勝優勝で、通算8回目の優勝を飾った。越乃海強し。あ、太か。この男を止められる力士は一体現れるのであろうか?とは言え、豊山も2場所連続の14勝と、大関がすぐ目の前に狭っていた。