第23話 令和9年春場所②
周囲の不安とは裏腹に、コシは綺麗に白星を並べた。13連勝と他の力士を圧倒する正に横綱相撲であった。この時点で自力優勝の可能性があるのは3人。コシと1敗の横綱大鵬と平幕の豊山であった。コシと豊山は同部屋の為、本割での直接対決はない。ただ、このまま白星を並べれば、コシの星次第ではあるが、史上2人目の新入幕優勝が視界に入る。コシは2人の横綱との対決が予想されるが、過去の対決では、対豪昇龍には8勝1敗。対大鵬には7戦全勝と圧倒する内容を見せている。
まずは、新入幕優勝を狙う前頭14枚目の豊山が勝ち越しをかける大関照の山との一番である。初の大関戦で緊張した豊山であったが、大関の出足をもろ手で突き止めると、得意の左寄つで一気にガブッた。大関照の山は豊山に一方的にやられ、完敗。7勝7敗で千秋楽を迎える事になった。これにより、豊山が13勝目を上げた為、14日目終了時点でのコシの優勝は千秋楽までもつれる事になった。とは言え年間90連勝を狙うコシにとっては、負けられない横綱戦となった。
まず、横綱大鵬も大関安高を破り、1敗を堅守し、土俵下に勝ち残り、コシの結果を見守った。「越乃海!!」と大歓声がこだまする大阪府立体育会館で、ここまで10勝3敗とピリッとしない西の横綱豪昇龍をコシは迎え撃った。立ち合い。かち上げからのもろはず押しを選択したコシ。対する豪昇龍はぶちかましからの突き押しを選択。結果としては、コシのもろはずが無防備な豪昇龍の体勢を崩す結果となり、決まり手は送り出しでコシが14連勝とし、3場所連続優勝に王手をかけた。そして千秋楽は1敗の横綱大鵬との直接対決。豊山は横綱豪昇龍戦に抜擢された。
千秋楽。まずは豊山が横綱豪昇龍を破り金星を獲得。結びの一番の結果を待つ。そして、第40代立行司木村庄之助が、千秋楽結びのふれを告げた。越乃海、勝てば文句無しの全勝優勝。敗れれば、3人による優勝決定巴戦。
「俺の事は良いっすから、コシ関の優勝が見たいっす!巴戦になってもコシ関には勝てません。」
「負けるつもりはない。本割で決める。」
「時間です。」
「よし!行くぞ!」
「はっけよーい。のこった!のこった!」
立ち合いは昨日と変わらずかち上げからのもろはず。しかし、かち上げの効果は消すかの様に大鵬は右にずれる立ち合いを見せる。だがコシは冷静に突き押す。まわしを取りたい大鵬だがコシがそれを許さない。立ち合い注文相撲で勝てると思った大鵬は横綱としてはまだ青二才であった。決まり手は突き出し。コシは全勝優勝を決め3場所連続7回目の優勝を達成した。
「これで、30連勝か。まだ三分の一じゃねーか。」
と、まだ道半ばで先は長いと感じていた。ちなみに14勝1敗だった新入幕の時津川部屋のホープ豊山は敢闘、殊勲、技能と三賞を総ナメにした。