第20話 2026年(令和8年)を振り返って
「今年ももう終わりですね、コシ関。」
「そうですね。今年は横綱にも昇進出来たし、怪我で初めて負け越しも経験したし、色々と激動の1年でした。」
「まだ、18歳6ヶ月。伸びしろはまだまだありそうですね?」
「どうですかね?師匠には稽古で左寄つが課題だと言われるんですが、右さえ取れれば立ち合いのぶちかましやかち上げからの突き押しもあると自負しているのですが、伸びしろがあるとすれば左寄ついや左からの攻め手ですね。」
「弱点を無くす事が出来たら、優勝も量産出来る様になりますよ。」
「じゃあ、稽古あるのでこの辺で。」
「え?今日大晦日ですよ?」
「時津川部屋は暮れも正月も無いんですよ。」
「なるほど。それでは我々はここで失礼します。」
「コシ関良かったんですか?」
「何が?」
「折角取材に来てくれたのに?」
「あのな、トヨ?横綱ってだけで取材申し込み何百件とあるんだぞ?全部受けてたらまともに稽古出来やしない。今回はお世話になってるNHAの独占取材だから受けたんだ。」
「まぁ、トヨが代打で受けてくれるなら話は別だけど?」
「いやいや、また無茶振りを。」
「取材ってのはね、1分以内に世間が休みの時に行うの。これ、プレス(マスコミ)が一番嫌がるの。さっきの取材でもそうだけど、要点だけバシッと答えて、お疲れしたぁ!ってなるのが一番ベスト。とは言え、最近では、飛躍的に取材申し込みがプライベートなスマホにもかかってくるから困るよ。」
「まぁ、史上最年少横綱ですからね?これ以上無い取材相手ですし、無理も無いですよ。」
「そうかもな。」
「じゃないんですよ、コシ関!」
「まぁ、隙間時間にちょこちょこ受けるようにするよ。それより来年(2027年)令和9年は10代最後の年。目指せ年間90勝。これは、あの横綱白鵬でも達成出来なかった大記録。これを先ずは達成する。」
「6場所全勝優勝するんですか?」
「まぁ、常人には無理だろうけどな?」
「勝てるうちに勝っとく。負け込んだら引退しかねーからな、横綱は。」
「それはそうですけど、他の力士の壁になるって事ですよね?」
「あぁ、怪我さえなければそうなれるはず。」
「左手中指の具合はいかがですか?」
「ドクターにも見てもらったけど、骨もくっついて経過は順調だってさ。」
「じゃあ、誰にも見えない景色を付け人の自分にも見せて下さい。」
「あぁ。初場所から全勝優勝かましたるわ。」
「コシ!左の攻めが甘いぞ!」
「何度も同じ事を言わせるな。右寄つで攻めるなら左手はしっかりおっつけるか、はずに。まぁ、お前の場合ぶちかましやかち上げからの突き押しで勝負が決まれば良いのだがな。無理に左寄つを極めろとは言わん。だが、前頭の上位から役力士はコシの弱点を研究して攻めて来るぞ?」
「大丈夫ですって。右寄つはあくまで保険。滑り止めですよ。8割は立ち合いのぶちかましからの突き押しで勝負を決めますよ。」
「じゃあ、その滑り止めも強化しなくちゃな?唯一の弱点である左寄つをな。」
「お願いします。」
「ここからは1対3で相撲を取る。ぶちかましやかち上げは禁止。必ず3人の内の1人の左をとれ。その間にも右左と圧力はかかってくるぞ!」
「はい!」
「これはキツイ。」
と、弱音を吐きながらも、時津川親方の考案した最強の左寄つを極める特訓はNHA黒赤歌合戦が始まる頃まで続いた。そして年が明けた。