第18話 令和8年九州場所①
医師の許可も下り先場所左手中指の怪我で途中休場をした、横綱5場所目の越乃海は、部屋での調整であった。
今場所の最大の見所は新横綱の2代目大鵬である。九州入りするまでは、積極的に出稽古に参加したりと、調子は絶好調の様だ。安高や若本夏や照の山と言った大関陣も好調な様である。
コシが充分な寄つにくめない中で、馬力と突き押しでどこまで通用するかは分からないが、西の正横綱として、優勝争いには加わって行きたい所である。
「指の方はもう大丈夫なのか?」
「はい!鉄砲をしても全く痛くないですし、突き押しは充分可能です。」
「でもその指じゃまだ寄つでは戦えないな?」
「今場所突き押しが駄目ならもろ差しを狙って行こうかと思います。」
「コシがもろ差し?突き押しで全勝するつもりなんか?」
「可能ならば。」
「そうか。先輩横綱の意地見せてやりな!」
「はいっ!!」
周囲の不安を他所にコシは初日から8連勝。と好スタートをきった。立ち合いの馬力や突き押しの威力は平幕レベルの力士達では対処不可能であった。左手中指は頑丈にテーピングで固定し、軽度の寄つなら可能まで回復。一方の新横綱2代目大鵬は先場所の活躍が嘘のように中日八日目終了時点で5勝3敗と優勝争いからは大きく後退していた。3人目の横綱豪昇龍も、6勝2敗とふがいない成績ではあった。
「コシ関、マジで痛くないんですか?」
「全然。」
「全治3ヶ月って言われてましたよね?」
「もうほとんど痛くないよ。」
「でも、まだ中日給金直しですし、これからは大関横綱戦も控えてますし…。」
「俺の手の内なんて99%研究されてねんて?」
「じゃあやばいじゃないですか?」
「俺のぶちかましやかち上げからの突き押しはその研究の上を行く。簡単には対策出来ない。」
と、意気込むコシだったが、大関横綱陣に病み上がりのコシの突き押しは効くのか?
「体重も159kgまで増えて来た。これはオフの間に取り込んだパーソナルトレーニングの成果だな。」
「筋肉は重いですからね!」
「食事も低GIを意識して、たんぱく質を取りまくったからな。今の俺は過去一ムッキムキやで!」
「トヨ?お前全くこの凄さを分かっていないだろ?」
「はい。」
「だからお前はいつまでも幕の内で相撲が取れないんだよ?」
「10代で横綱になるだけでも凄いのに、怪我を克服しただけでなく9kg増やせるなんて、正に令和の怪物・神童ですね。」
「そんな大したもんじゃないって。」
「15歳でこの世界に入って3年ちょっとか?」
「そうですね。」
「モチベーションを保つには勝利と優勝しかねーんだわ。次に狙うは優勝記録の更新だな。」
「そうですよね。」
「まぁ、怪我無くやれりゃあそれで良いんだよ。」
「名横綱と言われた人はほとんどが怪我をしない。初代大鵬や千代の富士、白鵬に貴乃花や朝青龍。皆ピンピンしていた。彼らの活躍からしたら俺の怪我なんて小便引っ掛けられただけの様なもんだ。あの人達が背負って来たものからすればな。」