第17話 令和8年秋場所②
相撲はとってもいないが、横綱越乃海は途中休場となり、力士になって初めて負け越しを経験した。
「まぁ、これも良い経験だ。と思ってリハビリ頑張ろう!」
「師匠…相撲がしたいです。」
「まぁ、ギプスがとれるまでは四股・摺り足位で我慢しておけ。それより、コシTV見なくて良いのか?」
「誰が勝とうが誰が負けようが、自分には関係無いですから。」
「まぁ、無理強いはしねーけどよ。」
令和8年秋場所は十四日目を終えて、2代目大鵬が14戦全勝、1敗で大関安高、2敗で横綱豪昇龍が続くと言う展開だった。この時点で優勝争いは2代目大鵬と安高の両大関に絞られた。既に両大関の直接対決は終わっていたが、2代目大鵬が千秋楽の相撲で勝てば安高の成績に関わらず優勝が決まり、2代目大鵬の第77代横綱昇進が決まる。その2代目大鵬の壁になれるか横綱豪昇龍。安高は勝って来場所の綱取りに繋げたい。
そして秋場所千秋楽これより三役。若本夏vs無双山、安高vs照の山、2代目大鵬vs豪昇龍が組まれた。まずは大関安高。馬力で勝る照の山を立ち合いのかち上げから、押し出しで破り14勝目。これで何とか首の皮一枚でかすかな逆転優勝の可能性を横綱豪昇龍に託した。
だが、この日の2代目大鵬は目つきからして違った。覇気も感じられた。仕切りから横綱豪昇龍を圧倒していた。横綱豪昇龍もこれはマズイと敗北が脳裏をかすめた。第39代木村庄之助が軍配を返す。
「はっけよーい。のこったのこった!」
立ち合いから引っ張られる様にガシッと右寄つに組まれた横綱豪昇龍は、ロックされた感じになり、全く前に圧力をかけられなかった。まるで手の内がバレバレの様に横綱は大関2代目大鵬に寄り切られた。立ち合いからほんの数秒の事であった。
2代目大鵬マストの横綱へ。15戦全勝(コシとは未対戦)でいよいよ昇進を預かる横審(横綱審議委員会)へ審判部は決定。満場一致での推挙となった。
「謹んでお受け致します。横綱の名に恥じぬ様一所懸命土俵を盛り上げる事に務めます。本日はありがとうございました。」
「何か日本語おかしくねぇか?」
「コシ関TV見ないんじゃないんですか?」
「同期が綱を同時に張るんだ。これ程喜ばしい事は無いじゃないか?」
「コロコロ変わるな?秋の空みてぇだ。」
「それよりトヨ?お前まだ十両くんだりで苦労してんのか?」
「私はね、貴方達みたいな怪物と違って猫なんですよ。苦節18年やっと関取に成れたんですから。」
「俺の太刀持ちを一門の琴羽黒に任せておくのも忍びないんだが?」
「もう2場所は猶予下さい。」
「まぁ、無理なら無理で仕方無いな。実力の世界だからな。」
「それより2代目大鵬の奴不知火型で行くつもりなのか?」
「確か初代の大鵬さんも不知火型でしたよね?」
「昭和の大横綱の四股名を受け継ぐだけに、横綱土俵入りも合わせて来たか。」
「そんな事よりコシ関左手中指の具合はどうなんですか?」
「バッチシよ!九州場所には絶対間に合うから。」
「若いから治りも早いんですね。」
「ファンもそろそろ横綱越乃海の全勝優勝待ってるだろ?」
「そうっすね。」