第16話 令和8年秋場所①
場所前は先場所苦杯を舐めたコシは2代目大鵬のいる大岳部屋に連日出稽古に出た、横綱4場所目の越乃海はウィークポイントである左寄つを徹底的に稽古。盤石の横綱に成る為に、3場所ぶりの優勝奪還へ燃えているコシであった。
大関の2代目大鵬も綱取りで好内容なら横綱になろうかと言う重要な場所であり、その為には2人の横綱を倒さなければならなかった。
「この四股名を名乗っている以上横綱であると言う事はマストです。」
そんな事を2代目大鵬は大関に昇進した頃から話す様になっていた。そんな2代目大鵬も気が付けば20代に突入。先を越された形の越乃海を追い付く為には千載一遇のチャンスであった。
ともあれ、場所入りした2代目大鵬とコシは対照的な成績となる。コシは初日に横綱になって初めて猿飛に金星を配給すると、六日目には関脇無双山に押し出され、2敗を序盤で喫した。一方の大関2代目大鵬は、序盤から連戦連勝で、中日給金直しと横綱昇進に向け視界良好であった。もう一人の横綱豪昇龍は7勝1敗で中日を折り返した。
「コシ関!?」
中日の時津川部屋での夜間稽古の事であった。
「その指どうしたんですか?」
「何でもねぇって。」
「トヨ?どうした?」
「親方?コシ関の左中指折れてます。」
「どれ、見せてみろ!」
「親方、この位の怪我位で。」
「コシ、病院行くぞ!」
「大丈夫ですって。」
「なら何でそんなに冷や汗かいてる?」
「それは…。」
「痛いからだろ?」
医師の診察の結果、左中指の粉砕骨折で、全治3ヶ月の診断が下された。
「コシ、悔しいかも知れないが休場だ。」
「この位、テーピング巻けば何とかなりますって?」
「駄目だ!休め。どうもおかしいとは思っていたが、後世に残る横綱に成るんだろう?」
「そうですよ!今無理したらもっと取り返しのつかない事になりますよ?」
「付け人にまで言われちゃ仕方ねーや。」
「まだ18歳だろ?少しくらい休んでも横綱越乃海の未来に禍根は残さねーって。」
翌日、相撲関係者は横綱越乃海の途中休場のニュースにあぜんとした。初めての不戦敗。初めての負け越し。九日目の対戦相手の大関安高は不戦勝となった。
「いつ痛めたんですか?」
「多分中日の琴羽黒との一番かな?」
「勝つには勝ったが土俵の外に勢いで手を付いた時嫌な感じがした。その位の感覚だ。」
「音とかしたんですか?」
「馬鹿にされたもんだな。横綱の一番だぞ?」
「聞こえませんよね。確かに。」
これで横綱は豪昇龍一人となり更に2代目大鵬の横綱昇進の可能性の目が広がった。
「まぁ、良かったじゃないすか?」
「何にも良くねーよ。同期が同じ地位に来るんだぞ?焦るべ?普通。」
「コシ関は横綱なんだし、番付の降下は無いんですから、まずはゆっくり怪我治しましょう!」
「休んでいられるか!」
「駄目ですって勝手に動いちゃ?」
「コシ、ダンベル持って来て何やってんだよ?」
「筋トレっす。医者の許可が下りれば稽古には参加しますよ!」
「おい、コシ!TVつけろ!」
「あれ?豪昇龍2敗??2代目大鵬は全勝。どうなってんだ?」