第15話 令和8年名古屋場所
どんなに強い力士でも、怪我や病気には勝てない。ただ、コシはこう考えていた。弱いから怪我をする。自分の健康に無頓着だから病気になる。真に強い力士は怪我も病気もしない。と考えていた。
横綱3場所目の越乃海と、新横綱の豪昇龍、大関照の山、大関2代目大鵬等が順当に勝ち、土俵を締めていた。最初に優勝争いから脱落したのは、新横綱の豪昇龍であった。九日目の琴羽黒戦で星を落とすと、十日目の大関安高戦でも覇気なく寄り切られ、十一目からは途中休場と、苦い横綱デビューの場所となった。
一人横綱となったコシは十二日目に大関2代目大鵬に押し出しで敗れ、優勝争いからは一歩後退。コシを退けた2代目大鵬と照の山の2人の大関が場所の中心になった。とは言えコシも何とか食い下がり十四日目を終えてコシ、照の山、2代目大鵬が13勝1敗で並ぶ展開に持ち込んだ。千秋楽では、照の山と2代目大鵬の両大関の直接対決が組まれ、コシは大関安高戦が組まれた。コシを越える為には両大関共に本割での勝利が絶対条件である。安高には申し訳ないがここはコシが勝つ可能性が高い。次の横綱候補になるのは、照の山か?2代目大鵬か?答えは2代目大鵬であった。照の山を気迫一閃、一気に寄り切った。
令和8年名古屋場所千秋楽結びのふれ。コシが安高に勝てば2代目大鵬との優勝決定戦。敗れれば、2代目大鵬の初優勝となる。ここは、横綱。コシは、落ち着いて大関安高を突き出しで破り14勝1敗として、優勝決定戦に進出した。壁になれるか18歳1ヶ月の横綱越乃海。少ないチャンスをつかみ来場所を綱取りの場所と出来るか2代目大鵬?
優勝決定戦の行司は第41代式守伊之助。
「時間です。待った無し。手を付いて!」
「はっけよーい。残った残った。」
横綱のぶちかましにも一歩も怯まない大関。すると、コシが右寄つで攻め様とするが、2代目大鵬は巻き変えてそれを許さない。左寄つに組んでしまったコシだったが、苦手とは言え無い状況である。しかしこれも2代目大鵬の作戦のうちか?コシに巻き変えさせて来ようとした所を体をするりと入れ替えて2代目大鵬がコシを突き落とした。万事休す。コシは滅多に食わない突き落としに屈し、大関2代目大鵬が初優勝を果たした。これで来場所は堂々と綱取りだ。同期にあっさりと優勝を持って行かれたコシは悔しさを後に名古屋を後にした。
「コシ?どうした?」
「親方?こんなんで横綱って言えますか?」
「14勝1敗でも優勝出来ない。って事は周りもレベル上がっているって事じゃねーか?連勝記録作った頃の相撲を思い出せ!あの頃のコシはがむしゃらに白星に貪欲だったじゃないか?来場所も周りは研究してくるぞ?だから左寄つも覚えろって言ったじゃないか?」
「そうっすね。」