第14話 令和8年夏場所(2026年)〜夏巡業〜
横綱2場所目のコシは夏場所でも、一人その強さに磨きをかけていた。
初日から9連勝として迎えた夏場所十日目。相手は小結の無双山。立ち合いのぶちかましから一気に土俵際まで追い込むと一気に押し出し。これで横綱双葉山の作った69連勝を塗り変える新記録を打ち立てた。
一方綱取りの懸かる大関豪昇龍も初日から10連勝とし、早くも優勝争いはこの2人に絞られた。結局、十四日目まで互いに星を落とさず迎えた夏場所千秋楽。いよいよ決戦の時は来た。
第39代木村庄之助の結びのふれで西から大関豪昇龍、東から横綱越乃海が登場。互いに負けられない一戦となった。しかし、追うものが無いコシと、勝てば横綱と言う明確な目標のある豪昇龍とでは少しだけ心の持ち様が違った。絶対に勝ちたい豪昇龍はいちかばちか立ち合いで、スペシャルオプションを考えていた。真っ向勝負では勝ち目が薄いと思っていた豪昇龍は変化気味に右にずれコシを慌てさせた。不意を突かれたと思った瞬間、足を取られ土俵中央に転げ落ちた。
「横綱越乃海連勝は74でストップ。そして全勝優勝の大関豪昇龍は横綱へ!」
「奇襲作戦見事はまる。東の正大関豪昇龍第76代横綱へ。」
新聞やテレビではこぞって豪昇龍の奇襲作戦を褒めた。そう、これも相撲の明である。絶対無敵の横綱越乃海を倒すにはこれしか方法が無かったのである。これでコシも少しはその気になったであろう。大関豪昇龍はコシの5連覇と75連勝を阻止した。通算2度目の優勝で遂に横綱になれた。
「謹んでお受け致します。清廉潔白の精神で横綱の名を汚さぬように精進致します。本日はありがとうございました。」
と、立波部屋に来た使者に礼をして立波部屋は新横綱の誕生を祝った。
「コシ?こう言う事もあるよ。前を向こう。」
と、時津川親方になだめられるコシであった。
「勝大兄さん?今からぶつかり稽古お願いします!」
「え?今から?」
「はい。何だか血が騒いで。」
「それなら自分にやらせて下さい。」
「時海王?三段目の貴様が?」
「勝大兄さんはスタミナきれてます。自分ならよほど役に立てるかと。」
「よろしく頼む。」
「おーし!ふんぬーん!」
「どうした?そんなんじゃ十両上がれずに力士廃業しちまうぞ?」
「若大将だが何だか知らねーが、うぷ。」
「はっはっは。やっぱコシは横綱だ。敵わないっす。」
「あ~、スッキリした。次は100連勝だ!」
「良かったじゃないか?モチベーション保てて。」
「はい。親方の言う通り、横綱になって天狗になっていました。」
「そうか?土俵の鬼に成るのには、まだ若すぎると思うぜ?チャレンジャー精神でやって行けば必ず勝てるって。」
「チャレンジャー精神?」
「あぁ、今のコシは受け身に回っている。下位力士には勝てても、豪昇龍には勝てないぞ?」
と、夏巡業が終わる頃にはそのチャレンジャー精神を身に付けた。そして番付発表。令和8年名古屋場所は東に越乃海、西に豪昇龍と、久しぶりに東西に横綱が座った。大関陣は東に照の山と2代目大鵬が。西には安高と若本夏がそれぞれ番付された。