第13話 令和8年(2026年)春場所〜春巡業
入門からちょうど2年。越乃海は第75代横綱に上り詰めた。新横綱で臨む令和8年春場所は、4連覇がかかる。
それ以外の楽しみな話題も盛り沢山である。新大関に照の山と2代目大鵬が同事昇進。この二人もコシに続けと順調に番付を駆け上がって来た。
荒れる春場所と言われたが、今場所は横綱・大関が崩れる事は無く、中日8日目に新横綱のコシと大関豪昇龍が給金を直すと、他の大関も全員7勝1敗で続いた。
後半戦の土俵は横綱越乃海が締めた。新大関の照の山と2代目大鵬は、星の潰し合いで13日目を終えて10勝3敗と優勝戦線から後退した。
横綱越乃海が13戦全勝で1敗の大関豪昇龍がが追うという展開になった。
迎えた春場所14日目。大関豪昇龍が敗れ横綱越乃海が勝てばコシの5回目の幕の内最高優勝が決まる。いずれにせよ、コシと大関豪昇龍の対戦は千秋楽結びの一番である。今年の春場所に波乱は無かった。豪昇龍は大関安高を上手投げで下し1敗を堅持。コシは結びの一番で2代目大鵬を押し出しで破り連勝を59に伸ばした。
気迫一閃猛然と突っ込んで来るであろう大関豪昇龍戦に向け、付け人の豊の里と立ち合いを入念に確認していた。とは言えこちらは横綱。新横綱ではあるが、格の違いを見せた。立ち合いのあたりは想定内。豪昇龍はまわしを探りに来なかったが、コシは懐に飛び込んで右寄つの形を作る。そこからは一瞬であった。
横綱越乃海は17歳9ヶ月と言う史上最年少で、新横綱優勝を果たした。優勝回数はこれで5回となり、昭和の大横綱双葉山(初代時津川親方)が作った69連勝まであと9勝とした。そんな事とはいざ知らずあの平成の大横綱白鵬ですら成し遂げられなかった偉業であり、それを超える事は前人未到の領域に入る事になる。
「綱は重いか?」
「師匠?」
「重いだろ?」
「まぁ、それなりに。」
「記録とかそう言うのは後からくっついて来るもんだから。真面目にコツコツやってれば必ず良い結果につながる。実際努力の成果が出来てるじゃないか?」
「雲竜型の横綱は寿命が短いと言うジンクスがありますが…。」
「そんなもん関係ないさ。コシの土俵入りを楽しみにしている地元新潟のファンの皆様にしっかり見せてやれ。ジンクスなんか吹き飛ばしてしまえ。」
春巡業で地元新潟に凱旋した時の反響の大きさにコシは驚いた。待望の横綱誕生に大いに沸いた令和8年春巡業北陸場所であった。
2026年4月下旬。令和8年夏場所の番付けが発表された。コシは横綱2場所目で一人横綱として東の正位についた。春場所でコシと優勝争いをした大関豪昇龍は東の正位で綱取りに挑む。1横綱5大関と、横綱候補生が沢山上がって来ているだけに、一人横綱として、しっかり壁になれるか?横綱の矜持である正々堂々と、挑戦を受ける覚悟がコシにはあった。
「コシ関?まだまだ先は長そうですね。」
「そんな事より早くトヨには十両に上がって貰わないと。」
「自分が付け人だと迷惑ですか?」
「それは違うよ。ただ強くなって、俺の太刀持ち位してくれねーと、勝大兄さんに悪いだろ?」
「まぁ、そうっすね。」