第12話 令和8年(2026年)初場所〜冬巡業(横綱昇進)
越乃海はそのままの勢いで14連勝して、大関豪昇龍との全勝相星決戦に臨む事になった。勝てば一気に横綱昇進への機運が高まる。大切な一番を前に、コシは付け人の豊の里と会話していた。
「いよいよっすね。」
「ああ、でも大した事は無いよ。」
「横綱昇進が懸かる大一番っすよ?」
「なってからが大切で本物の力士だろ。」
「良好な精神状態っすね。」
「まだ17歳の若僧だぜ?そんな奴が過去74人しか成ってない横綱になるかも知れないんだぜ?こんなにワクワクする事は無いよ。」
「大銀杏やっと結えるようになりましたね。」
「こっちより、豪昇龍の方が肩に力入っているんじゃね?」
「そうかも知れませんね。コシ関、時間ですよ!」
「さぁて、一丁やりますか。」
「決めちゃって下さい。」
と、豊の里に送り出されたコシは両国国技館西のかたやから出て西の花道を通り西に控えた。東の控えには対戦相手の大関豪昇龍が座っている。そして千秋楽これより三役。まずは東から。その後にコシが扇の要を務める西の力士へ。大関若本夏と関脇の尾炎、そして結びの一番の前で大関安高と、関脇台栄勝の一番。そしていよいよ結びの一番。勝てばコシは17歳7カ月所要11場所での正に最速史上最年少横綱になる。ここは絶対に負けられない。
土俵上にコシが姿を現すと地鳴りの様な歓声で両国国技館には異様な空気が生まれて行く。コシは本来相手を威嚇するような事はしなかったが、今日は違った。絶対に勝つ。観客も徐々にヒートアップしてきた。豪昇龍勝てば大関としては初優勝。来場所は綱取りだ。コシ勝てば4場所連続4回目の幕の内最高優勝。そして稀勢の里以来9年ぶりの日本人横綱誕生へ。
第39代木村庄之助が仕切る。そして制限時間一杯。まわしは与えたく無いコシはがむしゃらに突いて行こうとした。しかし、過去の対戦では、注文相撲を取られた事もある。立ち合いは要警戒だ。
「時間です。まったなし。手を付いて!」
先に手を付いたのはコシ。1秒でも早く勝負を決めたかった。
「はっけよーい。のこった、のこった!」
コシは豪昇龍に変化無しと見るやいなや激しく突き押しで攻める。豪昇龍も張り手や突っ張りの応酬。しかし、コシは豪昇龍の懐に入り右寄つで攻める事にした。巻きかえられる前に勢いで乗り切ろうとした。
「これでお〜わり!」
コシは豪昇龍を一気に浴びせ倒した。
越乃海全勝優勝!3場所連続の優勝を全勝で取りきった。史上最年少17歳7ヶ月で決めた。一場所での大関通過は類を見ない。
色々あったが、正式に横綱昇進が決定したのを聞いたのは初場所後の番付編成会議を経てから、時津川親方から聞いた。
そして部屋に使者が来たのはそれから2、3日してからの事であった。
「謹んでお受け致します。乾坤一擲横綱の名に恥じぬ様稽古に精進致します。本日はありがとうございました。」
と、口上を読み上げると、時津川親方は泣いていた。
土俵入りの型は雲竜型にした。綱の締め上げは時津川一門の力士等によって行なわれた。その後は冬巡業へと慌ただしく出かけた。