第11話 令和8年(2026年)初場所①
「慎んでお受け致します。正々堂々大関の名を汚さぬよう、稽古に精進します。本日はありがとうございました。」
令和7年九州場所後の番付編成会議で越乃海は満場一致で大関に推挙された。
「どうしたんですか師匠?固まっちゃって?もう、普通逆でしょ?」
「こう言うのは初めてだからな。」
「あともう一回(横綱昇進時)あるんですからね。頼みますよ?師匠。」
「お、おう。」
コシはここ3場所連続優勝している為、この初場所の結果次第では、史上数少ない一場所での横綱昇進の可能性もある。そんな新大関の越乃海に世間は大注目。連日のマスコミ対応でコシは稽古不足だった。それでも兄弟子の幕内力士の勝大が胸を出してくれて、その稽古不足を補ってくれた。今は平幕だが、勝大はコシが入門する前は大関の地位にいたこともある。10場所足らずだったが、それでも横綱一歩手前まで行った実力者であった。右膝の大怪我で平幕に下がったのだが、一時期は序ノ口まで下がり、辛酸を舐めた。そんな時現れたのがコシであった。一緒に稽古し、お互いを高めあって来た。
「俺も絶対大関に復帰してやるからな。」
それが勝大の口癖であったが、コシにあっという間に先を越された。
「悔しくはないっすよ。コシは本当に強い男ですから。若いけど肝が座ってますからね。」
と、出世頭部屋頭の越乃海に兄弟子も師匠も脱帽だ。
今の課題は左寄つだ。ぶちかましてからの突き押しは決まれば電車道だが、そのスタイルは相手に研究されている。右寄つならば充分とれるが、必ずしも相撲の流れの中で右寄つに成れるとは限らない。左でも戦えるとなれば、さらに一つ上の番付は時間の問題だ。とにかく、この令和8年初場所ではぶちかましてからの突き押しをベースに組まれても戦える様に、稽古を重ねた。
初日の相手は曲者の猿飛。注文相撲もあるため、立ち合いは要警戒であった。はっけよーい。の行司の合図で右にずれた猿飛に落ち着いて対応。相手を見ながらの突き押しを繰り出し、土俵際粘る猿飛を一気に押し出し勝利した。大関初勝利だが、反省点ばかりと謙虚なコシ。時津川親方もコシと同じ見解であった。反省も大事だが、一日一番それに集中するのみである。
二日目は小結無双山と顔が合った。同じタイプの力士なので、こちらもぶちかましていける。小結とは言え、元学生横綱のタイトルを持っている無双山の立ち合いは一級品てある。とは言え、コシの立ち合いは更にその上を行った。だが問題なのはぶちかましてからの後の攻めである。そのまま突き押しで行くのか、まわしを取るのか?答えは土俵上で現れた。立ち合いは五分五分。突き押しの応酬となったが、ここはコシの勝利。連勝スタートとなった。
それからは越乃海の独壇場で平幕相手に取りこぼす事無く、中日給金直し。8連勝で勝ち越しをストレートで決めた。このまま、今場所もコシが全勝優勝するのか?新大関の後半戦に期待が持てた。ちなみに兄弟子の勝大は6勝2敗と、まずまずの成績であった。




