第101話 令和17年初場所(2035年)
横綱54場所目のコシは、四股・摺り足・鉄砲や中村(時天山)や山中(時虎丸)と言った、部屋の横綱・大関や関取衆とのぶつかり稽古を中心に調整して来た。とにかく新年早々怪我と言うものは避けたかったので、コシとしては軽めの仕上げにして、初場所を迎えた。
この令和17年初場所前に横綱大鵬(2代目)が現役引退を発表。コシの同期がまた一人少なくなった。引退の理由は右膝の大怪我だった。3回も手術し次に怪我したら歩けなくなる。と言われていただけに、右膝に爆弾を抱えての出場には踏み切れなかった。優勝回数わずか2回と横綱としては少なかったが、何度もコシに優勝を献上し、シルバーコレクターとなった力士であった。
「我が相撲人生に悔いは無し。」
と、引退会見でバシッと決めたのも清々しかった。横綱大鵬の今後は年寄大山を襲名し大岳部屋の部屋付きの親方として、後進の指導に当たる。との事である。
横綱越乃海の初日の相手は猿飛。ジャイアントキラーの異名を持ち初日の大関・横綱戦の通算勝率は60%と警戒すべき力士だったが、コシは慌てず猿飛を常に前に置き突き押しで上手く料理した。そこからいつも通り中日給金直しを達成すると、13日目まで無敗で優勝のかかる14日目の大関台栄勝戦を迎えた。勝てば文句無しで優勝決定と言う大切な一番でコシはあえてまわしにこだわった。神の右を狙い立ち合いからぶちかまし、もろはずで突いてくる大関を牽制した。捕まえてしまえばうるさい大関も万事休すである。これにより、コシは2場所連続45回目の優勝を達成し、元横綱白鵬に並び優勝回数記録1位タイとなった。千秋楽の横綱照の山戦もゴッドライトで右寄つに組み渡り圧勝。全勝で優勝に花を添えた。偉大な記録に並んだ事を引退した大鵬がコシを祝いに来てくれた。
「越乃海、よくやったな。おめでとう。」
「あ、ありがとう。つーか引退は残念だよ。」
「現役の時はいつも壁になってくれたな。」
「悪かったな?強くて。」
「勝たして貰った記憶が無い。笑。」
「何やっても越乃海には通じなかったよ。」
「悪いな。ま、勝負の世界だから。そこは。」
「ま、お前は後3年は現役でいられるな。」
「はぃ?もっと末長くやってやるぜ!」
「その意気だ。頑張れよ!」
とコシは同期の励ましに全力で答えた。
「父ちゃん!」
「竜一!皆は?」
「ママと時津川部屋で祝勝会の準備中。」
「勝手に外に出ちゃ駄目じゃないか?」
「あっ!大鵬関?どうしてここに?」
「俺の三つ子の長男です。」
「お父さんみたいに立派な力士になるんだぞ?」
「はい。サイン下さい。このシャツに。」
「ペンならここに!」
「おう。そうか。きっとサイン書くのはこれが最後だな。」
キュキュキュ。
「おお!大鵬関じゃないすか?」
「まぁ、俺はいつも脇役だったがな。」
「コシ関の同期ってだけで飯食ってた世代だからさ。越乃海と同じ時代を生きれた事に感謝しているよ?」
「だってさ、パパも花向けの言葉かけてやりなよ?」
「言葉に出来んな。勝ち頭だったからさ。」
「まぁ、これからも茶の間を賑わす様な記録を作ってくれよ!」
「了解。じゃあそろそろ行くわ。あばよ。」
「おう。」
こうしてコシの同期元横綱大鵬(2代目)が土俵を去った。惜しまれつつも、偉大なシルバーコレクターが現役を去った事は大したニュースにはならなかった。