第100話 令和16年九州場所②
やはり、コシの実力は群を抜いていた。先場所のスランプから見事以前の強いコシが戻って来ていて、白星を並べた。最早若手のホープではなく角界の顔となっていたコシだが、まだ伸びしろのある26歳。大怪我が無ければまだまだやれる。とコシは思っていた。老け込むにはまだ早い。
令和16年九州場所は後続の力士達が星を潰し合い(毎場所の事であったが)、その中をスルスルと抜け出したコシが全勝優勝をかっさらった。2場所ぶり44回目の優勝であった。
「流石だなコシ。まぁ、力士ならスランプの一つや二つあるよ。そこを短期間で修正するんだから、お前は至高の力士だよ。」
「まぁ、コシ関ならこれ位は簡単にやってのけますよ。外国人に良い様にやられては。相撲は日本の国技なんですから。」
「あと2回優勝したら優勝回数記録の更新だな。」
「そこを目標にしてきましたから、モチベーションを保つ為には別の記録が…。」
「幕内1000勝、横綱1000勝だな!」
「今850勝位でしたっけ?数えてないけど。」
「どちらも前人未踏の記録だな。」
「そうなるな。今度はそれをモチベーションにしてやれ。横綱最高勝率はもう圧倒的1位だしな。ま、やれるところまでやって思い残す事が無くなればその時は引退と言う結末も選択肢としてはある。」
「まだ、子供も小さいですし…。現時点では引退は考えていません。
「あたり前田のクラッカーだぜ。」
「なんすかそれ?」
「ギャグだよ。あ~あコシは令和ボーイだもんな。分からないよな。」
「力士として欲しい記録はほとんど手にしちゃいましたからね。実際は。」
「まぁ、コシが現役でいる限り、他の横綱や大関はみーんなシルバーコレクターだからな?いい加減にして欲しいだろ?」
「だって強いんですから。仕方無いじゃないですか?」
「それはそうなんだけどさ?」
「他の横綱なんて、俺が休場している間に昇進した連中ばかりじゃないですか?」
「毎場所戦っているんだから、もっと本気で横綱越乃海対策をしないと?ま、そんなものは通用しませんけどね?」
「勝ったから強いんじゃなくて、強いから勝つんですよ。誰よりも努力していますし、他力士の研究も怠っていません。子育ては100%妻やヘルパーさんに任せっきりですが、それは相撲に打ち込む為です。勝つ為にほぼ全ての時間を相撲に割いているんです。四股だって誰よりも踏んでいますし、摺り足や鉄砲も嫌と言うほどやっています。怪我をしない様にストレッチや柔軟だってしっかり時間を割いています。」
「そうだな。確かに横綱の稽古量ではないな。」
「それだけ稽古した後にパーソナルトレーナーの作成した特別ちゃんこを食っているんだからな。」
「フクちゃんのお陰で戦える筋肉が付きました。体重管理も完璧で、無駄な脂肪は落とせて快適です。」
「パーソナルトレーニングを許可したのはこの私だからな?」
「分かってますよ。時津川親方の許可が無ければ困ってました。」
「令和の横綱は強くなる為にDXトランスフォーメーションも使うんだから大したもんだ。師匠なんか、形だけじゃないか?」
「そんな事は無いですよ。全ての白星は師匠に捧げているんですから。」
「マジかよ?」
「はい。」