第99話 令和16年九州場所①
横綱53場所目のコシは、先場所無念の途中休場となった為、一応怪我が無いかを確認する為、両国(自宅)近くの都立病院へ検査入院した。結果はどこも悪くなく、BMI値や内臓脂肪が高かったが、力士と言う事もあり、異常無しと判定された。
「良かったね。何ともなくて。」
「あぁ、ゆいPのお陰だよ。後はメンタル。自分で何とかしないとね。」
「それならいつも通り、平常心で良いじゃない。」
「確かにね。」
「それより明日から福岡入りだね?」
「あぁ。一年納めの九州場所だ。」
「TVの前で子供達と応援しているから。」
「うん。頑張って来るね。」
「頼んだよ。」
「じゃ、行って来ます。」
「え!?もう?」
「関取以下の力士達と早く稽古したいからさ。休場してから力士とのぶつかり稽古はしてないから。」
「そっか。行ってらっしゃい。」
こうしてコシは福岡に前乗りして、時の里や時畷などの幕下上位陣とぶつかり稽古をして調整した。
2日後時津川部屋の関取衆が福岡入りし、コシは、中村(時天山)や山中(時虎丸)らとぶつかり稽古をして再調整し場所入りした。横綱越乃海は初日から内容のある相撲で格下の挑戦者達(平幕力士)を続々と撃破。中日給金直しを決めいつもの定位置に座っていた。
「流石コシ関!ってところすかね?」
「これが普通なの。平常心でいるし。」
「メンタルの方も大丈夫そうだな?」
「はい!親方のお陰で自分に足りなかったものを見つける事が出来ました。」
「コシに足りなかったもの?」
「ここぞの集中力です。」
「ほう。ただ家族サービスして来た訳ではなさそうだな。」
「勝てばOKってのは横綱である以上駄目なんですよ。やっぱり相撲の内容が伴っていないと。それに今まではガムシャラに前に出るのが強さだと思っていましたが、それは違うんじゃ無いかと思い直しました。」
「もう綱を張って約9年。ようやくその境地に辿り着いたか?」
「中村や山中にもアドバイスしてやろうと思います。」
「そうか。」
「ちゃんと伝わると良いのですが?」
「 まぁ、そういうのはさ、親方の仕事だからコシは目の前の一番に集中する事が一番大切なんじゃないか?」
「今まではそれで良かったんでしょうけど、これからの人生を考えたら親方になって部屋を持ち、力士を指導する立場になった時の視野の広さを持つには、現役の時の貯金って大事だなって思うんですよね。」
「小結で終わった私には分からない感覚かもな。」
「四股・摺り足・鉄砲を徹底的にやれば必ず強くなる。って言われてますけど何も考えずやっている力士は弱いんです。目的を持って四股を踏み摺り足で足の運び方を覚え、強い突き押しの為に鉄砲を打つ。そして、対人の稽古に臨む。その繰り返しですよ。自分はたまたま最初から上手く行ってしまったが為に、凡人力士の経験する様なスランプや、つまづきをすっ飛ばしてしまったが為に先場所の様な事を経験したのです。」
「確かにコシがあのまま先場所を戦っていたらもっと傷は深かったかもな。」
「横綱である以上優勝に絡むのは当然の義務です。シルバーコレクターも休場も優勝以外は皆同じ。それは横綱の義務を果たしていません。」
「厳しいな。」
「いや、そういう教えじゃないですか?」
「そうか?」
「そうです。」