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電気ポット

作者: 蟹地獄

ある日のこと、私はキッチンの隅で静かに待機していた。

私の名前は「エレクトロハイパーウルトラポット」。

お湯を沸かすために生まれたただの電気ポットだ。

今日は特別な日、家族が集まってくる日で、私は大忙しの予感がしていた。


朝、家族がキッチンにやってきた。

お母さんが私の蓋を開け、冷たい水を注ぎ込む。

「さあ、頑張るぞ!」と心の中で叫んだ。

スイッチが入ると、私は温かい電流を感じ、内部のヒーターがじわじわと熱を発し始めた。


最初は静かだった水面も、やがて小さな泡が顔を出し始める。

「お、来た来た!」と私は興奮してくる。

泡が次第に大きくなり、ポコポコと音を立てる。

「もっとぉ~!もっとぉ~!」と叫ぶMの心と「ほらぁ~ほらぁ~、沸け沸け、沸くんだよぉ~ぅ!」と叫ぶSの心が胸の中で攻めぎ合う。


その時、家族の誰かが「紅茶を入れよう!」と言い始めた。

私はその言葉を聞いて、さらに顔とお尻に力を込める。

「来た来た来た~!」

水はどんどん熱くなり、ついに沸騰の瞬間が訪れた。

「やった!お湯の完成だ!」と心の中でガッツポーズ。


お母さんが私の頭のボタンを押し、熱々のお湯が私の鼻の穴からみんなのカップに注がれる。家族の笑顔が広がった。

しかし家族が飲んでいたのは普通に焦げ茶色をしたコーヒーだった。

「紅茶って話はどこにいったんだよ…。」

ちょっと複雑な気持ちになった。


しかしとりあえず仕事はやりきったのだから今回もちゃんと仕事をやりきった自分へ満足感を与えるためにも一応宣言しておこう。

「よっしゃー!やりきったどぉーー!」


そして家族がコーヒーを飲んでいる光景を眺めながら、「これがプロの電気ポットの仕事なのだよ!」と、別に家族からお金をもらってるわけでもないのにプロ電気ポットとして誇らしい気持ちになった。


そう、私はただの電気ポットだけど、家族の幸せを支える大切な存在なんだ。


その日、私は何度も水を沸かし、家族がコーヒー廃人になるまで飲み続けるのを笑顔で見届けた。


そして電気のコードを引っこ抜かれて私は眠りについた。

次いつくるかわからない仕事を再び待ちながら。


できたてホヤホヤのお湯温まるお話はいかがでしたか?

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― 新着の感想 ―
鼻なのかよとは思いました。二通りの心配+少し可笑しい あと、もっと……?ですかよく知らないのですがそれは通常反応のような
物が主人公の作品はあまり見ないものですので、新鮮味を感じながら読めました 良い作品です
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