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第八話 昇華された力

「——ここなら剣を振っても安全だろ」


 雄大な大地が広がる『神繁の農園』の森林区画前へと移動してきたダグラスは一人呟いた後、右手に持っている蛇腹剣へと視線を向ける。


(そもそも蛇腹剣って、どうやって使うんだ?)


 いざ蛇腹剣の使用を試みた時、どうすれば剣と鞭の形態を切り替えられるのか分からず、眉間に皺を寄せながら、じっと蛇腹剣を睨みつけることとなった。集中して蛇腹剣を観察し続けていると……。


「これは……識力による核心の光?」


 識力が発揮され、蛇腹剣の柄に淡い光が灯った。


(光が灯ってるってことは、柄の部分に何か重要な要素がある筈)


 識力により、光として可視化される物事の核心。その核心の光が柄に反応していることから、ダグラスは蛇腹剣の重要なギミックが、柄にあることを確信する。柄を注意深く観察し、両手で力強く握ったり、捻ろうとするなど、試行錯誤を重ねるが……。


「——うん、全然分からん! 本当に刀身の連結を解除できるのか? ん〜…………一旦、保留ッ!」


 目を瞑りながら唸り声を発していたダグラスは、カッと目を見開き、思考を放棄した。


「まぁ剣としては使えるだろうし、戦士系統のスキルを試してみるか」


 折角『神繁の農園』まで移動してきた為、戦闘系のスキルを試してみよう、と意識を切り替える。蛇腹剣を片手で正眼に構えると、深く息を吸い込み、スキル名を告げた。


「——『強撃』」


 スキル発動と同時に、ダグラスの身体から立ち昇った真紅の闘気が、剣を覆っていく。【見習い戦士】の初期スキルであり、武器に闘気を纏わせて攻撃するだけの単純なスキルなのだが、予期せぬ事態が起こる。


「ッ⁉︎ 剣に紋様?」


 覆われた闘気に呼応して、【叛天の救誓(レベリオ・ファトゥム)】の黒い刀身へ煌々とした真紅の紋様が浮かび上がった。その異様な現象の正体を探る為、識力を発動させようと、目に意識を集中させる。


「……さっきは柄にしか光が灯っていなかったのに、今は剣全体に光が灯ってる。闘気によって、何かのギミックが起動した?」


 識力が発動されると、先ほどは柄にしか灯っていなかった淡い光が、剣全体へ広がっていることに気づいた。何をしても変化のなかった蛇腹剣が反応したことに、一歩前進だ、と口角を上げるダグラス。


「——今なら鞭形態に移行できるか?」


 幾つかの刃が連なって形成されている刀身が分節化され、鞭のように伸びる剣を想像しながら、刀身の連結部に期待の眼差しを送る。すると、蛇腹剣はダグラスの想像通りに刀身の連結を解除し、鋼鉄のワイヤーに複数の刃が等間隔で備え付けられた漆黒の鞭へとその形状を変化させた。


「す、凄いな! 本当に変化したぞッ!」


 鞭状になったことで長さを増した蛇腹剣が、地面に垂れ、とぐろを巻いているの姿に目を輝かせる。目の前に広がる森林区画へと視線を向け、地面に垂れた鞭状の蛇腹剣を引き摺りながら、森林まで残り五メートル程の場所に立つと……。


「——スゥ……やるか」


 深く息を吸い込んだダグラスは、右手に持つ蛇腹剣の柄を強く掴みなおし、一本の木に狙いを定める。


「——ッ!」


 肘を曲げたまま、身体を勢い良く一回転させ、再び狙いの木を正面に捉えた瞬間、肘を伸ばして蛇腹剣を振り抜いた。【見習い戦士】として武器の扱いに補正が掛かっているのか、狙っていた木へ鞭状に伸びた蛇腹剣が命中し……。




「え……?」


 ——豆腐を切るかのように、太い木の幹を切断した。




 目の前で巻き起こった予想外の現象に理解が追いつかず、呆然と立ち尽くすダグラス。木に攻撃を加えたのは、蛇腹剣を上手く標的に当てられるのかを確かめる為で、斬り倒そうなどと微塵も考えていなかった。いくら闘気を纏った『強撃』だからと言って、『最下級職』である自分の攻撃がここまで強力になるとは、思っても見なかったのだ。


(……そもそも【叛天の救誓(レベリオ・ファトゥム)】が世界最高位の武器だし、スキルで能力階位が一段階上がってるんだったな)


 【見習い戦士】でありながら、スキル『全能昇華』によって、自身の能力階位が上位職の【戦士】と変わらない事を思い出す。【叛天の救誓(レベリオ・ファトゥム)】の破格過ぎる性能に、もはや苦笑するしかなかった。


 攻撃を終えたことで、『強撃』のスキルが切れ、蛇腹剣を覆っていた闘気が霧散していく。闘気が完全に霧散すると、蛇腹剣に煌々と浮かんでいた真紅の紋様が消え去り、鞭状だった蛇腹剣は、再び一本の長剣へと姿を戻した。


「蛇腹剣の機構を動作させるには、闘気を注ぐ必要があるんだな」


 こんなの初見で分かるかッ、と内心で悪態を吐くダグラスだったが、蛇腹剣の操作方法を理解出来たことで、表情には安堵の色が浮かんでいた。


「ついでに、魔法も試しとくか。——『千変万化』形態(モード)(フェルラ)


 スキルを発動し、『蛇腹剣』から『杖』へと形を変える【叛天の救誓(レベリオ・ファトゥム)】。この世界に来て、一度も発動したことの無い魔法に心を躍らせながら、杖を木に向かって構える。


「森に火は不味いし……『水球(ウォーター・ボール)』」


 【見習い魔法師】の初期スキル名を唱えると、杖の先へ水の球体が出現し、瞬く間にその体積を膨張させていく。


(……あぁ、魔法も威力が上がってる…………)


 本来、『水球(ウォーター・ボール)』は手のひらサイズの水が生成される最弱魔法だ。しかし、諸々のバフが掛かったダグラスの魔法は、到底『最下級魔法』とは思えない、直径五十センチ程ある特大の水が生成されていた。


(まぁ、予想はしてたよ……)


 ダグラスは杖の先に構築された魔法へ集中し、木に向かって飛ぶよう念じる。——直後、勢い良く射出された水の球体は、案の定大きな衝撃音と共に大木を圧し折った。


「これで『最下級魔法』って……。もっと上位の魔法を使ったら、どうなっちまうんだよ……」


 自身の魔法の威力に呆れた表情を浮かべながら、その場で仰向けに倒れ込む。両手を頭の後ろに組んだダグラスは、雲一つない青空を眺めながら、独り言を呟き始めた。


「……戦士系統の『天職』は、片手直剣・鞭・拳闘・弓の熟練度を優先的に上げる。魔法は……とりあえず、全属性を『特級職』まで満遍なく上げていこう。特別急いであげる必要のある『魔法属性』なんて——あったわ」


 今後の熟練度上げに思考を馳せていると、最優先で取得すべき『魔法属性』に思い当たる。


「——ラファリアを救うのに、『夢幻魔法』の取得は必須だ」


 魔王ラファリアは、シナリオの終盤まで魔王城の一室で昏睡状態に陥っている。ラファリアが再び目覚めるのは、最後まで彼女を案じ続ける忠臣が命を落とした時であり、目覚めた彼女は、世界と運命を呪う暴虐の化身になり果てる。つまり……。


「ラファリアが悲劇によって目覚める前——眠っている最中に彼女を救う必要がある。他者の夢に入り込める『夢幻魔法』は絶対習得しなきゃな」


 ゲームをプレイしていた時、【夢幻魔法師】を取得した状態でのみ発生する、特殊なイベントが存在した。夢魔に襲われ、昏睡状態へと陥っている人物の夢に入り込み、夢魔を討伐して救うというイベントだ。ラファリアは夢魔に襲われている訳では無いが、夢の中に入り込む魔法を使えば、眠り続ける彼女と接触出来るだろう。


「となると、幻属性の魔法に派生する【光魔法師】の取得が最優先だなッ!」


 そう言いながら勢い良く飛び起きたダグラスは、まずは腹ごしらえだ、と農園から野菜と果物を採取し、料理系統の『天職』に向けた施設——『神炊の厨房』へと歩き出した。






「——食ったぁ〜」


 採取した食材を厨房で料理し、その場で食したダグラスは、中央の広間に仰向けで倒れ込み、ステータスを見ながら膨らんだ腹を右手でさすっていた。



=====================================

 ダグラス・イニティウム

 《年齢》十二歳     《才能》EX

 《闘気》D       《魔力》D

 《聖力》D       《識力》C⇨B

 《天職》【極越神】(——)

  ——【見習い戦士】(〇/一〇〇)

  ——【見習い魔法師】(〇/一〇〇)

  ——【見習い神官】(〇/一〇〇)

  ——【釣師】(〇/二五〇〇) New

  ——【農夫】(四五/二五〇〇) New

  ——【裁縫師】(〇/二五〇〇) New

  ——【料理人】(二〇/二五〇〇) New

 《装備》【叛天の救誓(レベリオ・ファトゥム)

 《称号》『魔神の使徒』『極神を超越せし者』

=====================================



(まさか、初日で『中級職』まで上がるとは……。釣り、採取、服作りに料理。今日行った活動と関連した生産系の『天職』は全て取得されてるな)


 食材を採取する度に『天職』の熟練度が上昇していくものだから、ついつい楽しくなって『中級職』へと達するまで続けてしまった。食材を採り過ぎたせいで、大食いする羽目になったのだが……。


(ゲームでは空撃ちでも熟練度が上がったのに、戦士系統も魔法系統も熟練度が上がっていないな……)


 生産系統以外の熟練度がゼロのままになっているステータスを眺め、怪訝な表情を浮かべるダグラス。


「まぁ、いいか。明日から本格的に戦闘関連の『天職』を育てていこう」


 そう呟き、目の上を右腕で覆って光を遮ると、数分も経たない内に意識を手放すのだった——。

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