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第四話 エンディング後の隠しダンジョンへ

 ダグラスというキャラは、物語の序盤で僅かな時間しか登場しないキャラであったが、主人公やヒロインに対する傍若無人な態度で、久我の記憶に強く残っていた。


「……よりにもよって、転生先がコイツだとは」


 ダグラスは散々偉ぶっていた癖に、水属性の魔物が出た瞬間あっさり死んでいった。久我にとってダグラスは、『属性には相性がある』という説明をする為だけに用意された、チュートリアル用の悪役(ヒール)だ。そんなキャラへと転生してしまった現実に、頭を抱える。


「コイツの身体じゃ、ユリウスと仲良くするのは無理だろ。——ベリファード、これの何処が好条件の転生体なんですか……」


 ステータスの『魔神の使徒』という称号を睨みつけながら、転生体が好条件だと自信満々に語っていたベリファードの顔へ悪態を吐いた。


「そもそも、この『魔神の使徒』って称号は何だ? ゲームには登場しなかったよな」


 謎の称号に対して、久我が首を傾げた瞬間、視界に表示されているステータスが変化する。



=====================================

『魔神の使徒』

 魔神『ベリファード・ヴァン・デモニティウス』の加護が与えられた、異界より召喚されし者

 ・魔神の打ち込んだ『因果の楔』を起点とし、定められた世界の運命を改変可能

 ・邪神が齎す精神汚染に対し、『完全耐性』が付与される

 ・『魔神の加護』を持つ『ラファリア・ヴァン・デモニティウス』の所在を感知可能

 ・自身のステータスが確認可能

=====================================



 「……ラファリアを助ける為の必要最低条件だけ……戦闘や生活に直接役立つ力は無い感じだな」


 『魔神の使徒』という如何にも強力そうな称号に期待を抱いたが、今すぐ役立つような力が無いと分かり、肩を落とす久我。そのまま川から上がり、今後の身の振り方へ思考を馳せようとしたその時……。


「——そういえば、ダグラスがここで死んだのはお前のせいだったな……」


 川の水が浮き上がり、ゆっくりとカマキリの姿へと形を変えていく。精霊系の魔物であり、『火属性』の天敵——。


「——ウォーター・マンティスッ……!」


「リィイイイイイイイイイイッ!」


 ウォーター・マンティスの発する、耳障りで甲高い鳴き声が頭に響く。久我はゲームで学んだ、この世界の基本原則を思い出す。


「——この世界じゃ、属性の相性は絶対だ。……俺の『火魔法』じゃ、どう足掻いてもアイツにダメージは与えられない」


 この世界をトレースしていたゲームでは、不利な属性による攻撃は、威力が低下するどころか、完全に無効化されていた。敵の階位が自身より低ければ、ダメージは通るのだが、『中級』の魔物であるウォーター・マンティスと『中級職』のダグラスは同階位。ダグラスの攻撃が通らない以上、戦闘で勝つなど絶対に不可能なのだ。


「三十六計……逃げるに如かずッ!」


 久我はウォーター・マンティスから一目散に逃げ出した。森の中に転がり込み、ウォーター・マンティスの視線から外れることに成功する。


「リィイイイイイッ!」


「——ッ⁉︎ あっぶな……」


 久我は自身が隠れ潜んでいる木から、数本横に生えている木がウォーター・マンティスの放った水の刃によって切り倒される光景へ冷や汗を垂らす。久我はウォーター・マンティスに見つからないよう、四つん這いで森の茂みに潜みながら川から離れていった。




「——ウォーター・マンティスが水辺から離れない魔物で助かった……」


 森の奥へと逃げ込み、ウォーター・マンティスの脅威から完全に逃れたことで、久我は安堵の溜め息を吐いていた。一息ついた久我は、地面に座り込み、木に背を預けながら、今後の身の振り方について思考を馳せる。


「まず、村に戻るかどうかだな」


 久我は瞼を閉じ、腕組みをしながら、ゲームの初期地であるイニティ村へ戻るメリットを考える。


「村に戻れば衣食住が確保出来るし、勇者であるユリウスの動向も近くで観察出来る。俺が村に戻るメリットはかなり大きいが……」


 一銭も持たず、知り合いもいない状況で、ダグラスの住んでいた村を活用するメリットに魅力を感じつつも、久我は瞼を持ち上げて呟く。


「……よし、村に戻るのは止めておこう。本来なら死んでいる筈のダグラスが村に戻って、ストーリーが変わったら最悪だ」


 久我は最大のアドバンテージである『未来の知識』を守る為、村に戻る選択肢を捨てた。


「最優先は衣食住の確保か? イニティ村って確か辺境にあった筈だし、無計画に他の町を目指すのは無理があるよな……」


 久我はゲームのマップを思い出しながら、自身の置かれた厳しい状況に、苦い表情を浮かべた。


「イニティ村……初期地周辺…………。——ッ! もしかしたら、『アレ』を入手出来るかも知れないッ!」


 久我は邪神討伐後に存在が明かされる隠しダンジョンの存在を思い出し、勢い良く立ち上がる。


「ダンジョンに入れるか微妙だけど、試してみる価値は十分にあるッ! そうと決まれば、善は急げだッ!」


 興奮した表情を浮かべる久我は、隠しダンジョンのある滝へと歩き始めるのだった——。




 歩き始めてから、体感で二十分ほど経過し、久我は隠しダンジョンのある『乾坤の滝』前へと到着した。


「……やっと到着か。距離的にはそうでも無いのに、めちゃくちゃ疲れたぁー」


 川沿いを上流に向かって真っ直ぐ歩いてきた久我は、川からウォーター・マンティスが現れないか、常に警戒しながら歩いていた為、精神的に疲弊していた。


「——さて、まずはゲーム通りに石碑があるかだよな」


 久我は自身の住んでいた7階建てのマンションよりも遥かに高い位置から流れ落ちる雄大な滝を見上げ、緊張した面持ちで呟いた。


 滝の流れる壁沿いまで足を運ぶと、久我は壁に張り付きながら滝の裏側へと進んでいく。


(結構長いな……)


 壁と滝の間にある、人一人分の僅かな隙間を蟹のような横歩きで進んでいく久我。滝壺に落ちたら最後、死は免れないという、ゲームとは異なる緊張感に冷や汗を垂らす。


「……この洞窟は、ゲーム通りだな」


 久我が二十歩ほど歩き進めたところで、滝の裏に存在する八畳程の洞窟へと到達した。苔むした正方形の洞窟で、中央に鎮座する古びた石碑を見た久我は、口角を上げる。


「石碑がある以上、あの隠しダンジョンも存在するだろうな。……問題は隠しダンジョン内への転移か」


 隠しダンジョン内への転移には、二四文字のルーン文字が刻まれた石碑のギミックを解く必要がある。本来であれば、邪神討伐と五大ダンジョンを全て攻略して入手出来るアイテムにより、ギミックのヒントを得るのだが……。


「——ギミックの解き方は覚えてる。もし邪神の討伐前に『アレ』が手に入るなら、世界が変わるぞ……」


 石碑の前まで移動して生唾を飲み込んだ久我は、邪神討伐時に入手出来る『試神の羅針盤』に書かれたテキストを思い出す。


『——停滞せし者よ』

『——力を欲す者よ』

『——極神の権能は此処に在る』

『——審訊の間にて資格を示せ』

『——試神は認めし者へ黎明を告げる』

『——汝、運命の超克者なり』


 石碑のギミックは『試神の羅針盤』に書かれたテキストと対応したルーン文字に触れる事で起動する。対応したルーン文字を暗記している久我は、迷い無く石碑へ指を伸ばす。


 『停滞』を意味する【(イス)】、『渇望』の【(ニイド)】、『権能』の【 (ウル)】、『対話』の【 (アンスール)】、『覚醒』の【(ダガズ)】と、久我の触れたルーン文字が紺碧の輝きを宿していく。


「……ここまでルーンを光らせてもギミックが起動しなくて、昔めちゃくちゃ頭を悩ませたんだよなぁ」


 五大ダンジョンを攻略した際に入手出来る、ルーン文字の刻まれた五種類の『至極の神片』。それをヒントに石碑のルーン文字に触れたのにも拘らず、ギミックが起動しなかった過去を思い出し、苦笑する久我。


「……『試神の羅針盤』に書かれたテキストは六文。良く考えれば、ギミックを起動するには、六つのルーン文字に触れる必要があるのは明白だったのにな」


 そう口にした久我は、『汝、運命の超克者なり』というテキストを思い出しながら、石碑に刻まれた最後のルーン文字の隣に指を伸ばす。そこには何のルーン文字も刻まれていないのだが、指先が触れた途端に紺碧の輝きを放った。


「——『運命』を意味するルーン文字【 (ウィルド)】。……まさか、空白のルーン文字が隠れているなんてな」


 六つのルーン文字が紺碧の輝きを宿し、久我の足元に黄金の魔法陣が展開される。


「——来たッ!」


 ゲームで隠しダンジョンに転移する演出と同じ魔法陣が足元に展開され、久我は喜びに破顔する。黄金の魔法陣から放たれる神々しい光の奔流に、久我の視界がホワイトアウトした。

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