召喚
召喚
残り一つのアイテムを探す傍ら、それ以外にもやることはあった。
魔王をそのまま呼び出せば中世の悲劇が繰り返される。
そのため魔王の力を封印することにした。
だが完全に封じては意味が無い。
そこで力を一万分の一にするように考えた。
とりあえずそこまで封じて必要なら解除すれば良いとかんがえた。
間違って暴走でもさせたら大変だからだ。
封印の魔法は一般的なものだ。
実際にはその封印は魔法の暴走を防ぐ安全装置的なものだ。
警察などが犯罪者を収監するときなど使用している。
魔法力を100分の1にする札だ。
これを100枚張ればいかなる力でも大丈夫だと考えた。
だが男は大きな勘違いをしていた。
札には魔法力100を1にするだけの効果しかないないのだ。
たとえば150の魔法力のものがこの札1枚で1.5に成るわけではない。
1枚では51になるだけなのだ。
2枚では2になる。
3枚でも2のままなのだ。
札によって縮小された力はそれ以上縮小されなかった。
実際の魔力は100を超えるものは皆無だったのでそのようなことは知らなかった。
また、魔力封じの札は簡易に魔力を封じるのが目的だった。
だから、100分の1以外の札が存在していなかった。
術力を制限する目的など意味がないと考えられていたからだ。
結果的には将来雅雄はその札を重宝することになった。
札そのものは一般的なものだった。
だから知識があれば簡単に外してしまう。
男はそのためもう一つの対策を講じた。
それゆえに魔王自身が意志を持たないようにと考えたのだ。
禁断の秘法というものだ。
人間の意志を完全に封じて相手を自由に操る方法だ。
これで魔王は意志を持たない人形になる。
男の意志でなんでも出来るようになるはずだった。
こうして人形の方は完全に処置した。
後は7つの部品をそろえるだけだった。
そして、7個のアイテムと人形を持ち再び廃墟に戻る。
闇魔術会の面々もそろってようすの観察だ。
そして、文献にあったように6角形に配置してそれを二重円でかこんだ。
対角線を結び星型を作る。
その中央に残った一つのアイテムを置いた。
これで術式は完成した。
後は魔法を発動すればよいはずだった。
部下達が最後の魔方陣を書き込んでいた。
だが、術式が完成したところですでに魔法は発動していた。
それを作っていたものはその魔法陣から発する風?を何気なく浴びていた。
一人が仲間の頭を殴った。
少し離れたところで見ていた男。
ふざけるなと叱った。
だが直後にその者は仲間の放った火炎弾を浴びて瀕死だ。
魔方陣の近くの残った4人。
お互い獣のように気勢を上げて殺しあっていた。
そして、静かになった。
騒ぐ仲間達を一言で静める男。
男はそのあまりの惨劇にあきれるばかりだった。
さすが魔王の出現する魔方陣だと感心したぐらいだ。
実際は異次元の風を受け本能に忠実に殺し合っただけなのだ。
仲間には儀式のための生贄だと嘘を言ってごまかす。
なにが起きているのか知りたいのはその男の方だが魔方陣が危ないものだとは気づく。
気を取り直して用意した人形を所定の位置に置き構えた。
次に何をするのか考えているうちに魔法陣の中央に人影が現れた。
やはり魔方陣を用意するだけでよかったと安堵する。
それとともに次に何が起こるのか不安でもある。
呼び出したものが人形に入り込めるのか不安だった。
影は予定通り人形に近づいていく。
後は寄り代の人形に意識を写せば成功だ。
人形は桔梗が作ったものだ。
200年前の技術とはいえ今より遥かに優れたものだった。
すべての技術は50年前の魔法大戦で失われていたからだ。
その成果は目の前に再現されようとしていた。
魔方陣の中央に揺らめく影は依り代に吸い込まれるように入っていく。
その魔法使いの苦心の結果だ。
少し不安があったが人形に入ったなら成功だと確信する。
依り代の人形には制約の札を随所に仕掛けて逆らえないようにしていた。
魔王は依り代に入り込んだ。
魔術は完成した。
制約の札で力は一万分の一に抑えられている。
呼び出した魔王の意識まで封じるものだ。
当然、思考レベルも封印させたので意識はないはずだ。
これで、魔王の力を自在に使えると喜んだ。
その直後、魔術師は魔王に意識を探られ消滅した。
闇魔術会はその一瞬に消滅した。
目覚めた雅雄
依り代に吸い込まれるように入り込めさせられた。
思考の封印も完全に行われ楓の意識は封じ込められてしまった。
これから、一緒に消滅しようとした矢先の暴挙に怒りが爆発した。
そして、目の前のそれを仕掛けた男の意識を探った。
そこには封印に関して知識はあっても解除の知識はなかった。
怒りに力を振るった結果その男たちは膨大な魔力を浴びて灰になった。
雅雄の力は減らされても問題なくそれを成し遂げた。
いや逆だ。
封印が在ったから無事に済んだ。
怒りで暴発した魔力は周囲100メートルを巻き込んだのだから。
封印がなければ本人を含め、その被害はどこまでいくのかわからなかった。
こうして、雅雄は誰ともわからない召喚師によって蘇った。
楓の意識は魔術で封印されてしまったのだ。
魔術師の頭を調べた結果は最悪だった。
雅雄がもし死んでも封印は解けないものだった。
唯一の救いは永遠の眠りと言うものだ。
意識がないまま存在しているということらしい。
雅雄は仕掛けられた封印を解くために生きることを選択するしかなかった。
楓一人を残して死ぬわけにはいかなかった。
2人分の魔力が凝縮されたせいか雅雄の魔力は人間を超えていた。
通常の雅雄の魔力は50ほどだったのであきらかに何かが変っていた。
体に貼られていた魔力封じの札は余波で半分が焼け落ちていた。
雅雄の魔力に札が耐え切れなかったということだ。
もう一つの理由もあった。
雅雄の精神が2人分だったため札の効果がなかった。
札の効果は2人に割り振られた。
札は雅雄の効果を減らした、力を1に封じて存在していた。
雅雄側の力は完全に効果があったということだ。
100枚の札のうち50枚はそれゆえに残ったのだ。
残りの50枚は効果が無いまま張り付いていたので焼け落ちた。
雅雄の力ではなく、この時点ではまだ融合していない楓の力が雅雄の怒りで発動したのだ。
だから、楓の力でも雅雄の力でもない魔力ということだった。
闇魔術会の狙い通りくぐつの力として行使したのだ。
ただ、その力が自分達に向けられた違いはあった。