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第33話 『ユリシアにイタズラ』


「ルーク? 本当に大丈夫ですか?」


 暗闇の中での不安。

 彼女には相当なものだろう。

 だからこそ、安心させてあげなければならない。


「大丈夫です、任せてください。すぐに全部片付けますから」

「そ、そうですか……では頼みます」


 彼女に頼まれてしまった。

 ユリシアに。

 これはもう、全力を出さなければならないだろう。

 でも、ここで焦ってはいけない。

 まずは冷静でなろうか。


 闇の中、シャドウウルフの姿がくっきりと浮かび上がる。

 俺は亡骸ヴォーンホルンの姿のまま、慎重に群れへと足を進めた。

 

グルルルルル!!


 だいぶ警戒しているようだ。

 無理もない。

 シャドウウルフに対して、俺の身体の体積、およそ三倍。


 まずは挨拶代わりに、一発かましてやるか。

 俺は蹄を立て、その勢いを全身に乗せる。

 そして、シャドウウルフたちに突進した。


「骨砕きの突撃!」


 と叫ぶ。

 これは詠唱でも何でもない。

 言葉にする必要などないのだが、こうして言った方が、形になるかなと思ったから叫んだ。

 ちなみにただの突進だ。


 攻撃は一匹に命中する。

 すると同時に、群れを成していたシャドウウルフたちが四方八方に散らばり始めた。


 これじゃあ、いつまで時間が掛かってしまう。

 それにどういうわけか、亡骸ヴォーンホルンになっている間の体力消耗量が激しい気がする。

 まだ外見変化に慣れていないからなのだろうか?

 それとも骨だから、体力がないのか?

 

 どちらにしろ、骨砕きの突撃で一匹ずつ倒すのは効率が悪いな。


「ユリシア、大丈夫ですか??」

「はい、何とか」


 そう答えているものの、その様子はどうにも不安げで、動きもぎこちない。

 彼女のためにも、急がなければ。


 そういえば、ゾルラードが言っていた気がする。

 亡骸ヴォーンホルンは、雑魚の大群に対して特定の技を組み合わせた連携技を使っていたらしい。


「死獄牢!」


 俺は再び群れ始めたシャドウウルフにそう詠唱を唱えた。

 これは確かな詠唱であって、魔法であるのでカッコつけているわけではない。


 詠唱後、すぐさま骨で構成された牢獄がシャドウウルフたちを取り囲んだ。

 冷たく白い骨の壁が地面から一斉に立ち上がった。

 その形はまるで厳重な檻のように群れを囲み込んだ。

 骨は異様に輝きを放っていた。


 約三十匹のシャドウウルフがその狭い牢獄に押し込められた。

 これで奴らの逃げ場は無くなった。

 魔物たちは、息を呑むように押し合いながら、動きが大きく制限されていくのがはっきりと見て取れる。

 これで、ターゲットは確実に一つに絞られた。


「骨砕きの突撃!!」


 ただの突進技が、刹那にして骨の牢獄に強くぶつかる。

 激しい衝撃と共に、三十匹のシャドウウルフが一発で吹き飛ばされた。

 そして跡形もなく消し去られた。

 

◇◇◇


「ルーク! 状況を教えてください!」


 暗闇の中でよく耐えたと思う。


「はい、だいじょ――」


 いや、待てよ。

 暗闇でユリシアと二人きり。

 そんな大チャンスを俺は逃すのか?

 

 決めた。

 ちょっとイタズラをしよう。


 俺は外見変化を解除し、ユリシアに近づく。

 そして、躊躇することなく、彼女の背後から手を伸ばし、立派な二つのモノを揉み始めた。


「キャッ!」

「どうしました、ユリシア!?」

「何者かが! 私の……」

「大丈夫ですかぁぁ!!」

「え、ええ。なんとか、アッ、」


 モミモミ。

 良い触感だ。

 実に素晴らしい。


「見えます! シャドウウルフがユリシアに抱きついています!」

「あまり、見ないで!」

「はい! すぐに助けまーす!」


 モミモミ。


「やめて……っ」

「今、助けます!」


 あはは、最高だぜ全く。

 まるで気づいてないじゃないか。

 こんな至高な時間が一生続けば、俺の異世界転生も見合う気がするんだがな。


「シャイニングライト!」


 ユリシアの声が響くと共に周囲を包む暗闇が一瞬で消え去った。

 まばゆい光が辺りを照らし出した。

 俺はまだモミモミを続けていた。

 

「ルーク……! 何、してるんですか?」


 まるで鬼のような形相……。

 こんなユリシアは見たことがない。

 それに言い訳も何も思いつかない。


「あのー……これには深いわけがありまして……」

「聞かせていただけますか? その深いわけを」


 言い訳などない。

 ただ、揉みたかっただけだ。

 それ以外に何も理由はない。

 だが、しかし――。

 ユリシアは賢い。

 話せば、きっと理解してくれる。

 男には、週に一度の性欲決算日があると。

 男にとって、胸を揉むということはある種のストレス発散方法だと。


 

「すびばせんでじだああ!」

「いえ、もうスッキリしたので大丈夫です。今度また同じようなことがあれば、今度はベルタさんに頼むので」


 俺は「性欲ストレージ」だの「男のサガ」だのといった言い訳を並べ立てた。

 が、どれもユリシアの納得を得るには至らなかった。

 結果、顔面をボコボコにされる羽目になった。

 

◇◇◇


キーーーーーーーンン……。


 ユリシアのシャイニングライトが周囲を明るく照らし出す中、その空間には不気味な音が響いていた。

 耳鳴りのような不快な音。

 全身にじわじわと忍び寄ってくる。


 鈴の音が、チャリンチャリンと断続的に鳴り響く。

 その音が背後から聞こえてきて、俺は瞬時に振り返った。

 その瞬間、目の前に現れた影が視界に入る。

 光が届かない暗い場所から、その影がじっとこちらを見つめているのが分かる。

 

 背筋に冷たいものが走り、心臓が激しく鼓動する。

 その影が少しずつ近づくにつれて、恐怖が次第に膨らんでいく。

 影の形が徐々に明らかになり、見えない恐怖が目の前の存在として浮かび上がってくる。

 暗闇の中で、その姿が不気味にゆらめく。


 ドンっ! ドンっ!


 重く、まるで地面を揺らすかのような音。

 伝統舞踊のように、その音には冷徹な威圧感が込められる。

 そして徐々にその姿が明らかになった。

 深く兜をかぶる全身を黒い鎧で覆った者。

 黒い装甲が暗闇に溶け込むように輝いている。

 身長は遥かに高い。

 

 その姿から感じ取れる圧倒的余裕感。


 ――そして、圧倒的強者感。

 

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