第32話 『ユリシアと攻略しよう!』
光がふわりと灯った。
頭上には、小さな光の玉が浮かんでる。
まるで小さな太陽だ。
以前、俺が使ったシャイニングライトよりも遥かに眩しい。
さすがはユリシアだ。
成長してたのは俺だけじゃないんだな。
そういえば、ユリシアと二人きりだ。
ニレニアに来てからあまり、二人きりはほとんど無かった。
迷宮や訓練の時はいつもベルタがいてくれたからな。
二人きりなこと自体は良いことだと思う。
だが、状況が状況だ。
今に至っては決して良いと言えないかもしれない。
辺りが明るくなったことで、唸り声の正体がはっきりと見えた。
黒い狼の魔物。
運よく、数もそれほど多くない。
それに、さほど大きくもない。
グルルルル……!
鋭い目つきだ。
牙もむき出しで、俺に警戒しているのか?
俺の強敵オーラがうっかり出ちゃってたかい?
「シャドウウルフですね」
隣のユリシアがそう言った。
シャドウウルフか。
直訳すると影の狼だが、そこまで強そうではない。
と思ったが、そうでもないらしい。
「シャドウウルフは強いですよ」
「え、そうなのか」
どうやら、本当に強いらしい。
とりあえず、剣を構えた。
「援護します」
ユリシアがそう言ってくれた。
援護があると思うと心強い。
それにしてもさっきから殺気がすごい。
特に一匹。
群れの先頭にいるシャドウウルフが俺に向かって突進してきた。
だが、亡骸ヴォーンホルンよりは遅い。
あれに慣れていれば、逆にゆっくり見えるほどだ。
こんな攻撃、落ち着いて避ければいいだけのこと。
「……よっと」
軽々と避けた。
この調子なら、避けるのは簡単だろう。
すると叫び声が聞こえた。
「ルーク!」
ユリシアだ。
何かを知らせるような叫び声だ。
どうした? と聞く前に何かがおかしいと察した。
脚だ。
突如、激痛が走った。
見下ろすと、膝に深い傷ができていた。
血も酷く滲んでいた。
どういうことだ。
いま、確かに避けた。
なのに怪我を負った。
「地面を見て!」
地面?
ユリシアがまた叫んで異常を知らせる。
言われるままに地面を見たが、何もない。
「地面がどうした?」
ユリシアの方を向いて、そう言った。
すると今度は足首に痛みを感じた。
再び、切り傷が出来ていた。
「影から出てきてる!」
「影?」
ハッとした。
俺の足元から伸びた小さな影。
じっくり観察してみる。
その中に赤い光が二つ浮かんで、並ぶ。
さらにじっと見つめると、動いてることに気づいた。
赤いのが消えたり、また付いたり。
それはじわじわと近づいてきた。
俺に近づき、そして姿を現した。
シャドウウルフが。
俺の影から飛び出してきた。
急すぎることで対応ができない。
マズい。
速すぎる。
「――サンライトレイ!」
ドサッ――。
危なかった。
ユリシアの魔法で助かった。
俺に噛み付く勢いで飛び出してきた魔物を一瞬で打ち倒した。
「……あ、ありがとうございます」
「油断しないでください。相手は影の中を移動できるので」
軽く叱られたが、当然だ。
強いと注意を受けたのに、この有様だからだ。
それにしてもユリシアは強くなった。
一発で倒すなんて大したものだ。
俺も負けてられない。
俺は弱い。
だけど考える力だけはある。
今までも分析でどうにかやってきた。
だから、この状況。
俺はなんとなくだが、もう攻略法を見つけていた。
鍵となるのは、影の中を移動するというユリシアからの情報だ。
つまり、それが何を意味するのか。
光がある所ではただの狼だという事だ。
影を消せばいいだけのこと。
「ユリシア! シャイニングライトを出せるだけ出してくれますか?」
「出来るだけ? はい……や、やってみます」
俺はユリシアにそう指示した。
無茶な要求だが、素直に、やってみると言えるユリシアがすごい。
魔力量の消耗がすごいはずなのに。
やはり頼りになる。
◇◇◇
シャドウウルフは未だに俺のことを狙う。
俺は剣を構え、待ち構える。
その間、ユリシアが次々と「シャイニングライト」と詠唱を続けた。
構える剣が白光りするまで、場は明るくなった。
そうだ。
それだけでこのシャドウウルフという魔物は無力化できる。
光があれば、影は必ずできる。
だから影もできなくなるほど、光を出せばいい。
それだけのことだ。
俺は剣を手に取って、無力なシャドウウルフに近づく。
そして容赦なく、斬っていった。
十匹はもう倒した。
あとは何匹だろうか。
と思った矢先のことだ。
ふと光が弱くなっていくのに気づいた。
シャイニングライトの光玉が消えかかっていたのだ。
「ユリシア?」
囲まれていた。
シャドウウルフが彼女を完全に囲んでいたのだ。
全く気づかなかった。
自分のことでいっぱいだったから。
助けに行こう。
「ユリシア! 今行く!」
そう言った瞬間だ。
シャドウウルフの群れは彼女に一斉に飛び乗った。
同時に、シャイニングライトが全て消え、辺りは完全なる闇に包まれた。
「大丈夫か!?」
返答がない。
暗くて、確認しようもない。
「ユリシア!」
「……なんとか、大丈夫です」
「よかった……」
大丈夫だと。
襲われたように見えたが。
どう対処したんだろう。
だが、彼女がそう言うのであれば信用しよう。
彼女は大丈夫だ。
……それにしても暗い。
視界が悪いにも程がある。
「また光を出します!」
遠くからその声が聞こえた。
そうだな。
光を出さないと何も出来ない。
――いや、待てよ。
そもそも光は必要なのか?
影を無くす必要なんてあったか?
「いや、待ってください!」
「え?」
「光は出さないで! ユリシアはそこにいてください。俺がなんとかします!」
戸惑うのも無理はない。
だが、暗闇で思い出した。
こんな状況こその魔物がいたじゃないか。
直近で、闘ったあの魔物だ。
俺を悩ませたあいつだ。
「目を閉じてごらん、ユリシア」
いつも通りにそっと唱える。
そして、亡骸ヴォーンホルンに変身した。
成功した。
この外見変化はあまり慣れていなくて不安だったが。
それに暗闇でも視界が良好だ。
暗視ゴーグルを着けてるみたいに遠くまで見える。
にしても予想通りだ。
亡骸ヴォーンホルンと以前、対峙した時のことだ。
俺は奴から生気を感じられなかった。
影が薄いと言うのか。
根暗というのが近しいかもしれない。
それでなんとなく、あいつなら暗闇でも見えるかなと思ったが、正解だったらしい。
闇が包まれる中。
先ほどよりもシャドウウルフがウジャウジャ湧いてる。
ざっと三十匹はいるか?
ずっと影の中に隠れていたんだろう。
だが、もう奴らの隠れる場所なんてない。
今、ここは全てが影なのだから。
これで正々堂々と闘える。
さぁ!
かかってこいや!!




